「基本的法律関係の基本的認識」 目次を表示する。

 
基本的法律関係についての基本的認識
   −『法律認識読本』−


 ◆ 必須の前書き

* この「基本的法律関係の基本的認識」の中では、一つ一つの文章(sentence)それぞれについて、基本的に、法律の条数(第何条という条の数)も、その条文も引用していません。

 正確な意味の確認は、一つ一つの文章の該当法律の条文を読んで、不明確な部分は基本的な法律用語辞典などを参照して確認すべきものですが、この点での指摘はこの読本では基本的に省略しています。

 内容については、そのような明文での法律条文のあることを前提にして、それに関する法律関係上のこととして認識しておくべきと考えられるもの(そのような認識)を述べているものであることを、ご承知ください。

** この「基本的法律関係の基本的認識」の中での法律条文(明文)は、この『読本』での観点からですが、国の最も基本的な法律でもある、"憲法"、"民法"、"商法"、"会社法"、"刑法"、"民事訴訟法"か、この「基本的法律関係の基本的認識」の中で題名が表示されている法律の中から、電子政府の総合窓口」
http://www.e-gov.go.jp/の中の−法令検索−「法令データ提供システム」窓口で検索して確認することができます。

 但し、"憲法"、"民法"、"商法"については、現在のところ、条文に"見出し=肩書き"が付けられていませんので、該当条項が検索しにくいかもしれません。
(2005年の「民法現代語化」改正によって、民法には、条文の見出しが付けられました。)
 "市販の法令集"では、それぞれの法律の、各"条文に付けられている<見出し=肩書き>"を活用して検索して、確認することが可能です。

 また、法律条文の中の法律用語の意味は、基本的な"法律用語辞典"の情報によって、より確かな認識を得ることができます。

*** 国の法律に基本的には基づいて、国内のそれぞれの都道府県や市町村などの地方公共団体において定められていて、基本的にそれぞれの地方で適用される法律は、"条例"と呼ばれています。
 "条例"の明文については、今日では、それぞれの地方公共団体のインターネットホームページ内で、ほとんどが確認できそうです。検索のための目次には、"条例集"ではなく、"例規"または"例規集"と名付けられていることが多いようです。


 (1)「財産」の「所有者」は誰か−法律上"財産"とは何か、を含めて

「人(自然人)」と「法人」

 まず認識しておきたいのは、「財産」を"所有"する権利("所有権")を持つことができるのは、法律上では、「人」(「自然人」と呼ばれる。)と、会社などの「法人」であるとされていること、です。そして、法律上で単に"人"という用語を使う場合には、基本的には自然人と法人の、両方を含めている、ということです。("民法"の全体的な規定に基づいて、このようにいえます。)

 * 「財産」とは、一般的は経済的な価値のあるもの、と把握されていますが、法律上ではさらに、"経済的な価値のあるものであって、それに対して自分自身が(人が)持っている法律上の権利の強制力を、これに従う義務があると法律上認められる者(他人)に対して及ぼすことができる、もの" 、と考えることができます。その"特定のもの"の中には、他人の"法律上の義務"も含まれます。(たとえば、いついつまでに金何円を私に支払う法律上の義務、などのように。)

 あたりまえのようなことですが、そして繰り返しになるものですが、今日、法律上では、"財産を持っている"とは、何かの経済的な価値を持つ特定のものについて、法律上のなんらかの権利を持っているということである、と考えられます。("民事法"全体から、そのように判断できると考えられます。)


 **「権利」は、"一定範囲で適用されることになる、今日では基本的に明文の法律の規定で示される社会的な正義(の基準)に基づいて、これと対立する社会的な強制力を排除しうる社会的な強制力"、と考えることができるでしょう。

 「物やお金などの財産を"、借りる"ことができる権利」を持つことができるのも、基本的に「自然人」と「法人」(法律上では、これを合わせて、『人』)です。
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 *"無償(ただ)"で借りられる権利は「使用借権」、賃料を払って借りられる権利は「賃借権」と呼ばれています。

 以上のような所有権や、使用借権や賃借権を含めて、一切の、財産を保有・使用する権利("財産権"といいます。)についても同様です。それを保有できるのは、基本的に人だけであって、この人は、「自然人」である場合と、「法人」である場合とがある、ことになります。

 「自然人」は、生まれてきて、生きている個人の意味です。

 *なお、「相続」との関係では、胎児も「人」とされています。

 人(自然人)に対して、「法人」は、"人の団体や、財産の一定の集合体に対して、法律で、人と同じように権利(と義務)の主体になることができる、と定めているもの"です。

 * 一般的に、人の団体としての法人を「社団法人」と呼び、特定の人の、特定の目的に使用するという意思に基づいて法律で定める手続を経て、その財産の集合体に権利(や義務)の主体になりうる資格を与えられた財産(集合体)を、「財団法人」と呼んでいます。
 たとえば、"会社"や"協同組合"は、社団法人の一種です。
 財団法人には、基本的にこの"財団"の名称が添えられています。財団法人の場合も、その財産集合体の運営・管理や、権利・義務の実行は、その財団法人の規則に基づいて、基本的に(場合によっては他の法人が行なうことがありますが)自然人が行います。


 法人には、"会社法"でそれぞれの内容が定められている、"株式会社"や"持分会社"などの会社や、"民法"でそれぞれその内容が定められている、"一般財団法人・公益財団法人"や、"一般社団法人・公益社団法人"などの種類があります。
 "学校法人法"で定められている(私立学校や幼稚園などを運営する)"学校法人"や、"宗教法人法"で定められている(お寺や教会や神社などを運営する団体が法人になった)"宗教法人"など、その法人のための特別の法律によって定められている法人もあります。

 "国"や、都道府県・市町村などの"地方公共団体"も、それぞれ法律(憲法など)の規定の解釈に基づいて、法人であると解されています。

 法人の成立(誕生)に関しては、法人の種類によって、会社や、一般社団法人・一般財団法人などのように、誰でも一定の条件さえ整えれば、一定の手続を経たうえで設立の登記をすることによって、自由に成立させることのできるものや、学校法人や宗教法人や、事業協同組合などのように、公の機関(行政庁)の"認可"や"認証"や"許可"という手続を条件にしなければ、成立できないものとがあります。

 そして、(国や地方公共団体以外を除く)これら法人は、ほとんどすべて、その重要事項についての”登記”をすることを、法律で義務づけられています。

 * ごく例外的に、"国家公務員共済組合法や地方公務員等共済組合法に基づく国家公務員共済組合"などは、法人でも登記がなされず、(おそらく)官報にその重要事項が公告される扱いになっていますが、登記されない法人は、国・地方公共団体を除くと、ほとんどこの法人だけ、ではないかと思います。

 したがって、それぞれの法人の基本的な内容は、−たとえば、その法人の正式名称や、事務所の所在地や、その法人の事業目的や、その法人の正式な役員や、その法人の"純資産の総額"や"資本"などの基本的な内容は、"法務局" やその出張所に備付けの、"会社登記簿または法人登記簿"を見ることによって(またはその登記簿の写しである登記事項証明書の交付を請求して、それを見て)確認できます。



(2) 「相続」と「遺言」と「遺産分割」−財産権の包括的な引き継ぎの部分で


 財産権を持っている人が死亡すると、法律上その時点で、その配偶者や子など、死亡した人の相続人になる身分を持つ人の全員が、死亡した人の財産権のすべてを、その相続人の配偶者や子などの身分にそれぞれ応じた法律上の一定の割合("相続分"と呼ばれる)に応じて、自動的に"包括的に"引き継ぎます。

  * 配偶者と子が、一次的に相続人になります。配偶者がいない場合(すでに亡くなっている場合を含む)は、子だけが一次的に相続人になります。子がいない場合には、孫などがいる場合、その他の場合などに応じて、一次的に相続人になる人や、二次的に相続人になる人などが、法律上の身分関係などに応じて定まっています。

 このような、人の死亡によるその人の財産権の包括的な引き継ぎが、"相続"です。

 * 相続については、民法の第5編がその基本的なことを定めています。

 相続が開始した場合に、亡くなった人(被相続人)が"遺言"をしていたことがわかった場合に、その遺言が法律上有効な遺言であれば、遺産の権利の帰属先は、基本的にその遺言の内容どおりに法律上決まります。この場合に、
 たとえば配偶者に「全財産を相続させる。」という遺言があって、それが有効な遺言なら、その配偶者が、すべての遺産を、基本的に最終的に引き継ぎます。

 相続人でなく、第三者に遺産を引き継がせる遺言をすることも可能です。この場合には、誰々に"遺贈" する、という言葉を基本的に使って遺言します。そして、その遺言が有効な遺言なら、その、遺贈の対象となった第三者が、その遺言に応じて、遺産を基本的に最終的に引き継ぎます。

 * ただし、その遺言による遺産の引き継ぎが、他の相続人や、相続人でない第三者に帰属する結果となった場合に、その結果として、自身の相続分のうちの法律で定められた一定割合("遺留分"とよばれます)を失うことになるときには、その遺留分を保全するのに必要な限度で、一定の期間までに、その遺言の効果の減殺を請求できることになっています。
 この、遺留分に基づく減殺請求は、その遺言による遺産の引き継ぎが、他の相続人や、相続人でない第三者に帰属する結果となった、その、他の相続人や第三者に対してするべきだと解釈されています。
 また、遺言でなく、生前中、相続の開始する前一定期間内に他の相続人や第三者に対して贈与がなされていた場合にも、その結果として、自身の遺留分を失うことになるときには、同様に、その贈与の効果の減殺を請求できることになっています。

 遺言が書かれた遺言書は、封をされてない"公正証書"によるものであれば、そのまま開いて確認してかまいません。しかし、亡くなった人が自分で作成したものについては、また、特に封をしてあるものについては開かないで、すみやかに家庭裁判所に"検認"という、その遺言書が確かにあったということを確認する手続を、申し立てる必要があります。

 相続した後、遺言がない場合、または遺言があった場合でも、相続人間全員で、相続した財産権(これを"相続財産"とも"遺産"ともいっています)について、"遺産の分割"の協議(話し合い)をして、その話がつけば、その協議内容どおりに、相続した財産権の帰属が最終的に決まります。
 遺産の分割の協議では、原則として(すなわち、遺産の正味の金額が相当に大きい場合に、相続税法に定める相続税額が変わりうる場合があることを除いては)、相続人の誰に、どのように帰属させるかについて、法律上の制約はありません。

 遺産の一部だけについて、分割協議の話を決めることもできます。この場合、その部分の遺産だけについて、その協議内容どおりに最終的に帰属先がきまります。

 相続人全員で、遺産の分割のやり直しをすることもできると解釈されていますが、それによって、相続税法に定める"贈与税"が、新たに課税されることがあります。

 遺産の分割の協議がまとまらない場合には、相続人は、"家事事件手続法"(平成24年までは、"家事審判法"という法律)に基づく遺産の分割の"調停"(すなわち、裁判所での合意による解決)を家庭裁判所に申し立てることができ、また、その調停が不成立となったときには、遺産の分割の"審判"(裁判)の申立てをして、裁判所で解決をすることができることになっています。

* 遺言がなく、遺産の分割がなされない間は、相続人全員で、遺産を法律上の相続分の割合で"共有"(共同所有)している、ことになります。

** 一定額以上の正味金額の遺産の相続があった場合には、一定時期まで(平成16年8月現在、原則10か月内)に、相続税法に基づく相続税の申告納付をしなくてはならないことになっています。

*** "財産権の包括的な引き継ぎ"については、かなり特別な場合として、法人が、"合併"や"分割"によって、被合併法人(合併元の法人)や被分割法人(分割元の法人)の財産権を、その合併や分割の契約と、それらの法人の合併や分割に関する根拠法律に基づいて包括的に取得する、という場合もあります。
 "合併"は、二つ以上の法人が、それぞの法人の権限のある機関の決定(たとえば株主総会の決議など)を条件にして、契約に基づいて、一つの法人になることです。
 "分割"は、一つの法人が、その法人自身の権限のある機関が決定することに基づいて、あるいはこれと合わせて、他の法人と契約をすることに基づいて、その法人の財産権の一部を(包括的に)分割した別の法人に引き継がせることを通して、二つ以上の法人になることです。
 "分割"は、会社法施行数年前の商法改正ではじめてできた制度で、その後、会社法がその内容を基本的に引き継いでいます。)


 

 (3)個々の財産権の「処分」と「権利確保(保全)」−個々の財産権の讓渡・貸渡し等と財産権の権利確保(保全)方法についての法則性

 さまざまな権利の種類・分類の中での財産権と、「私権」と「公権」

 財産に対する自分自身(または自社)が持っている権利(財産権)は、普通、自然人としての自分自身が被相続人から相続したり、個人や法人としての自分自身または自社がその財産を所有する人から売買契約をして買ったり、金銭消費貸借契約や、賃貸借契約をして借りることなどによって、取得したものです。

* かなり特別な場合として、"合併"や"分割"によって、法人が、被合併法人(合併元の法人)や、被分割法人(分割元の法人)の財産権を、その合併や分割の契約と、その合併や分割の根拠法律に基づいて、包括的に取得する、という場合もあります。これについて前項(2)で少し触れました。

 そのような、"個人や、個々の法人など、(公的法律関係に直接は関わらない)私人間での、−相続して、あるいは契約をして取得した、などのありようで−取得し、確保している権利"は、「私権」と呼ばれています。

 "私権"は、個人が所属する公の機関(国や地方公共団体など)に憲法・地方自治法などに基づき選挙権・被選挙権行使など通じてを参加したり、所属する公の機関の規則に従ってその公の機関のある行為を請求したりできる、公的法律関係上の権利である、「公権」と対比されるものです。

* 国や地方公共団体などの公の機関であっても、法人として、個人や会社などとの間で、(私人間でのように)対等の立場で契約をする場合は、その契約に基づいて有する権利は、"私権"に該当します。(民法、民事訴訟法などの法律が、その契約には基本的に適用されることになります。)

 以下、この(3)の項で述べるのは、基本的に"私権"にかかわるものであり、特に、そのうちの"財産権"のことです。


 「私権」・「公権」と、「自然権(人権)」との関係

 前項で触れた"私権"や"公権"に対して、この社会の中で、どのような個人でも人間らしく生きるためにはそれを持っていることが必要で、誰もがそれを持っていることが当然だと考えられている権利は、私権や公権になるものを含めて、"自然権(人権)"と呼ばれています。

 
この自然権は、「"それがあるために、どのような個人の場合であっても人(自然人)が人間らしく生きることを不当に侵害された結果になる、と考えられる場合"でありながら、明文の法律によってもそれを排除できないようなときに、その侵害を排除できる権利」(「抵抗権」と呼ばれることもある権利)、そして「その人間が人間らしく生きるうえで、どのような個人の場合であってもどうしても必要と考えられるものを、明文の法律的な手段によっても確保できないようなときに、明文の法律を補い、あるいは訂正してそれを確保できる権利」として、誰もが保有している権利である、と考えられます。
(本来、明文の法律で[誰が考えても−あるいはその権限を持つ多数の人が−少なくともその時までには]定めなければならなかったはず[なのに明文の法律に欠けていた]の権利、と言うこともできると思います。)

 この"自然権"の基本的なものは、"日本国憲法"の第11条や,諸国家間の共通の法律である"国際的な<条約>または<規約>"や、諸国家間の共通の意思と権限に基づいて構成されている"国際機関の<憲章>や<宣言>"などの、(各国議会で定めた狭い意味での明文の法律に対して)広い意味での明文の法律に定められています。

 そしてこの自然権は、明文の法律には定められていないと解される場合でも、なんらかの明文の法律の解釈でその法律的な効力(強制力)が認められることによって、(そのようなかたちで)明文の法律上の権利として認められることがあります。
(平成18年に改正されて削除される前の、「利息制限法」第1条第2項[『債務者は、前項の<制限利率を超える>超過部分を任意に支払ったときは、前項の規定にかかわらず、その返還を請求することができない。』]については、平成18年の同法改正前でも、法律上の効力は持たないと最高裁判所でも解釈されていましたが、この例に該当すると考えます。)

 財産権の中に「物権」と「債権」との違いがあるという法則性−また、これらの権利と経営上での「資産」や「負債」との関係は、どのようなものか

 人が財産を所有したり使用したりできる権利("財産権")のうちで、"特定の<物>を、その権利の内容に応じて、どのような人に対しても排他的に所有したり使用したりできるものとされている権利"は、"物権"と呼ばれています。

 たとえば、物権である不動産の"所有権"は、特定の不動産を、どのような人に対しても排他的に所有することができる権利であり、同じく物権である"地上権"は、自分の建物などを所有するために特定の他人所有の不動産を、どのような人に対しても排他的に使用することができるという権利であり、同様に物権である"抵当権"は、特定の他人所有の不動産を、どのような人に対しても排他的に優先"担保"として確保できるという−種類の使用をすることができる権利です。

 これらの物権に対して、同じ財産権のうちでも 、特定の物をどのような人に対しても排他的に所有したり使用したりできるという、"物権"のような、物に注目した観点からではなく、特定の他人に対して、その他人の一定の行為を請求できるという、人に注目した観点から区分されている権利は、"債権"と呼ばれています。

 契約の相手方に対して、その契約上での義務とされている行為を、その相手に請求できる権利は、"債権"です。

* この"債権"に対応する、相手方が負担している、一定の行為をする義務のことは、"債務"と呼ばれています。なお、"物権"に対応する、一般の人が負っている義務は、単に"(その法律上の)義務"、とのみ呼ばれています。

 相手方がこちらの所有権を侵害して、たとえば無断で所有物を使っているとか、相手方が任意にその"債務"を実行してくれないというような場合に、その所有権や債権に基づいて、相手方に対して、その相手方の侵害行為を止めさせるとか、相手方の債務を実行させるために、"法律的な手段"によって、公の機関の物理的な強制力をももって実現させることができるのは、法律の効力として基本的なものです。

 しかし、"法律的な手段"によって、公の機関の物理的な強制力をももって実現させることができるその範囲が、"物権"と"債権"では、かなり異なっています。

 "債権"(相手方にとっては"債務")の場合には、相手方に対して"直接的"に、その一定の行為をさせるために公の機関の物理的な強制力が働くことがあるのは、その一定の行為が、相手方の人間としての生活を損なうことがないようなごく例外的な行為に限られ(たとえば、同居生活をさせるとか、閉じ込めて仕事をさせるなどの行為をさせることについては強制力を働かせることはできません。)、かつ、それを行わない場合には制裁金を課すというような、間接的な方法で実現することができる場合だけになります。

 "物権"の場合には、相手方に対して"直接的"に、その義務をさせるために公の機関の物理的な強制力が働くことに関しては、"債権"の場合のような制限はない、のが基本です。

* 私法上の権利である"物権"や"債権"に基づいて、これらの権利を確かに持っていることを公の機関(基本的には裁判所)で公に確認してもらったうえで、相手方に対して、この権利に対応する義務を、公の機関の強制力をもって実現させるための法律的な手段・手続は、"民事強制執行手続"と呼ばれています。

** 債権の民事強制執行手続に関して、上に述べたような、その行為を行わないと制裁金を課す、というような間接的な方法によってのみ認められることになっている、"相手方に対して"直接的に"その"債務"である一定の行為を強制的に実現させる民事強制執行手続"は、"間接強制"と呼ばれています。

 物理的な強制力をも発動して、契約に基づく"債務"を実現させるために、強制的に働かせるというような民事強制執行手続は、認められていません。

 私法上の権利である"債権"に基づいて、相手方にその"債務"である一定の行為を"法律的な手段"によって、公の機関の物理的な強制力をももって実現させることができるのは、基本的には、上に述べたような"直接"的に相手方にその行為を行わせるような方法によってではなく、

1) 相手方がその債務を実行しないときには、代わりの人にそれを実行してもらってその代金額を請求できるようにする、か(この手続は、民事強制執行手続の中で"代替執行"と呼ばれています。)、

2) その債務を債務者が任意に行わないために債権者が被る結果になる"損害"については、これを金額に評価して相手方に請求できるものであることが民法上で定められており、この相手方に請求できる損害金額を相手方が任意に支払わないときには、相手方の(人間としての生活上どうしても必要な一定範囲のものを残した)財産権を、それが動産であれば"強制競売"などによって売却してその代金を配当したり、それが預金債権や給料債権などであれば、"債権差押"手続によって直接受け取れるようにする−などの方法による民事強制執行手続による、
 ことになります。

*** 民事強制執行手続は、基本的に、その権利を相手方に対して請求できる旨の"判決"を、その権利を間違いなく有しているとの訴えを基本的に証拠を添えて裁判所に対して申し立てて、、裁判所でこれを審理して判断してもらった結果として取得し、その判決が確定する(法律上、上級の裁判所での審理などで覆されるということがなくなる)ことによって、はじめて実行することができるものです。
 (例外的に、民事強制執行手続を取るうえで必要な"判決"に代わるものとして認められているものが、幾つかあります。裁判所で行われた"調停"や"和解"が成立したときの"調停調書"や"和解調書"などが、これに該当します。)

**** "資産"は、何より経営上の意味を持つ言葉だと言えるもので、ある経営組織が取得し蓄積してきて持っている上に述べてきたような(物権・債権などの法律上の)財産権を、それを売却処分することができる(金銭と交換することができる)見込みのある場合の、その売却可能見込金額で評価したもの(その価値)です。

 "負債"は、これも何より経営上の意味を持つ言葉だと言えるもので、ある経営組織が他の経営組織に対して負っている上に述べてきたような(法律上の)債務を、それが履行(実行)された場合のその相手方にとっての資産価値としての金額で評価したもの(その−当方にとってはマイナスとなる−価値)です。

 ある(個人事業経営組織を含む)経営組織の、総資産金額から総負債金額を控除した金額は、その経営組織の"純資産"、または"資本"と呼ばれています。
 (いずれも、法律上の効力を前提にした、経営及びそのために必要になる会計上の用語です。)


   "物権"の種類うち、主なものとしての、"所有権"は、特定の物を全面的に自由に使用できる権利であるとされていて、相続や、その所有権の売買契約などによって讓渡され、また、取得されます。

 また、物権のうち、"抵当権"は、債務者の"債務"が任意に実行されない場合の"担保(保証)"として、その債務が約束どおりに実行されなかったときはその不動産を、民事強制執行手続としての"不動産競売"手続で売却処分して、その代金から優先的に、その債務が実行されなかったことによって、本来得られることになっていた利益金額を確保するための権利です。
 この抵当権は、基本的には不動産の所有者と債権者との間の抵当権設定契約によって、特定の不動産について(その抵当権の負担が)設定され、また、取得されます。

* "共同担保"は、複数の不動産を同一の債権の担保とするもので、基本的には民法の規定によって、その不動産の競売時の売却価格(時価)に応じてその債権額が割り振られて設定されているものとされています。

** "根抵当権"は、特定の債権についてではなく、民法で定める一定範囲に属する債権を、一定限度額("極度額"と呼ばれる)の範囲で担保するための抵当権です。たとえば、継続的な取引に基づいて発生し、増減する売掛金などの幾つかの債権を、極度額を定めて担保する、という抵当権が、根抵当権と呼ばれるものです。


 "債権"の中の主なものは、さまざまな"契約"にもとづいて成立(発生)します。

 たとえば"売買契約"は、"特定の財産権を相手方から自分に移してもらい、その代わりに一定の代金額を自分が相手方に支払う、という相互の約束"ですが、この契約に基づいて、その財産権の対象物の"占有"(特定の物を自身のために持っているという事実)を移してもらう債権と、名義書換が必要な財産権の場合にはさらにその名義書換をしてもらう債権(たとえば、所有権移転の不動産登記をしてもらう債権とか、株式名義書換をしてもらう債権など)が発生し、一方、相手方には、代金(を支払ってもらう)債権が発生します。それぞれの相手方には、それぞれの、その相手方の権利に対応する、債務が発生しています。

* 個々の債権の名前については、債権者の側からその相手方(債務者)に請求できる権利であるという趣旨がより明確な、〇〇"請求権"と呼ばれることがあります。"所有権移転登記請求権"とか、"名義書換請求権"などと呼ばれます。

 "賃貸借契約"を締結すると、その契約に基づいて、賃借人には、賃料を払うべき債務と、その物を借りて使用する債権が発生し、一方賃貸人には、賃料を請求する債権と、一定期間後にその物を返還してもらう債権と、その物を借り主に一定期間使用させるべき債務が発生します。

 "金銭消費貸借契約と利息(支払)契約"を締結すると、貸主には、一定の利息を請求することができる債権と、一定の金銭を貸し渡たした後の一定期間後に、元金を返済してもらう債権とが発生し、一方借り主には、一定の利息を支払うべき債務と、一定の期間借りた金銭を使用できる債権と、一定期間後に、その金銭と同額の金銭を返還すべき債務が発生します。

 債権の種類の中には、契約に基づいて発生するもののほか、たとえば、一方の、あるいは双方の故意や過失に起因して自動車事故が発生した場合などのように、故意に、または過失で他人の生活を侵害したような場合に、その被害を負った人が、故意または過失ある相手方に対して、その損害の賠償を請求できる債権など、があります。
(この例は、相手方の"不法行為"による"損害賠償債権(損害賠償請求権)" と呼ばれます。双方に過失があれば、それぞれについて、この債権と、これに対応する債務とが発生します。)


 「保証債務」と、「保証債務履行請求権」

 "保証債務"は、"主たる債務者(主たる債務を負担する人)"がその債務を実行しなかった場合に、債権者が、"保証人"(保証債務を負担する人)に対して、主たる債務者に対するものと同じ内容の債務の実行を,法律上請求できる権利です。

 主たる債務が利息債務や損害金債務を伴っている場合、保証人は、主たる債務者がその債務を実行できなかったりしなかった場合には、その主たる債務の利息・損害金を含めて、支払わなければならないということになっています。

 さらに、主たる債務者が支払をしなかったときは、基本的には利息だけでなく利息よりずっと高い利率の損害金の支払債務も負っているので、その分の支払債務も負うことになります。

 保証債務は、債権者と保証人との間の"保証契約"に基づいて発生します。
 主たる債務者と、保証人との間では、基本的に"保証委託契約"が締結されていることが多いのですが、このことを知らないでいることが少なくありません。(主たる債務者が知らないで保証人が保証契約をしていたという場合もないわけではないのですが。)

 この、保証委託契約において、もし主たる債務者がその債務を履行できなかった場合には、保証人に債権者から請求がされることになり、その結果保証人がその債務を履行したその損害については、民法上求償を請求できることになっていますが、この求償権の保証について、明確な契約を合わせてしておくべきです。
 この求償権の保証契約ができない場合、保証人になる自分が全額を負担する覚悟でいることが、必要になります。

 
* 平成16年改正民法の施行後は、保証契約は、書面による契約でなければならず、書面でなされない保証契約は無効とされています。

  * 一定の範囲に属する不特定の債務(たとえば"カードローン基本契約に基づいて発生するという範囲内での、個々の金額の貸借契約による債務"など)を主たる債務とする保証契約を、「根保証契約」といい、個人が保証人になったこの根保証契約で、その債務の中に貸金等が含まれるものについては、平成16年改正民法の施行後は、その債務の総額の限度額を、書面による契約で定めなければならず、それを書面で定めない契約は無効とされています。
 この限度額のことを「極度額」といいます。


  ** 保証契約に基づいて債権者が保証人に対して持つことになる債権は、保証債権といってもよいのですが、通常、"保証債務履行請求権"と呼ばれています。


 権利の時効−「消滅時効」と「取得時効」

 "債権"は、これを請求もせず、訴訟手続も取らないなど、基本的に10年間その権利行使をしないでいると、"消滅時効"(と呼ばれる法律の明文の定め)によって、これを失ってしまうことになります。
* 10年よりも短い期間で消滅時効の効果が発生する債権もあります。特に営業上の債権では、5年やそれ以内の期間でも、消滅時効が適用される債権が、少なくありません。

** 債務者の側では、その債務が消滅時効によって消滅しても、その事実(消滅時効で消滅した事実)を知っていながら、この"利益"を放棄するような行為をすると、その消滅時効の効力を(逆に)失ってしまう結果になります。
 消滅時効になった債務については、その消滅時効の利益を放棄する意思がないのであれば、明確にそのことを相手方に主張しておくべきです。この主張は、証拠を残すために、内容証明・配達証明郵便として出すことが基本的に必要です。

 また、所有権は消滅時効によってその権利を失うということはありませんが、債権以外の(所有権を除く、たとえば地上権などの所有権以外の)財産権は、20年間その権利行使をしないでいると,同じく消滅時効によって権利を失うことになります。

 このような消滅時効に対して、自分が所有する意思をもって、あるいは自分のためにする意思をもって、他人の権利の対象になっている物や、他人の財産権そのものを、20年間、平穏にかつ公然と使っていると、"取得時効"(と呼ばれる明文の法律の定め)によって、その物に対する権利や、その他人の財産権が、自分の権利になり得ます。

 場合によっては,10年間で取得時効が成立することがあります。

* 元の所有者やその他の財産権者は、他人によるその取得時効の結果として、自己の所有権や財産権を失います。


 「知的所有権」にかかわる法律的な法則性

 人間主体の対象物として、何らかの物質的な手段でその存在を確認できるものであっても、(その物質的な確認手段としての)物質そのものではない、人間の創作物である"著作"や"美術"や"発明"や"デザイン"や"商品のネーミング"や"商品のマーク"などのうちで、法律に基づいて(そのいくつかの種類のものについては登録を受けたうえで)、独占的に使用できる権利を取得することができるものがあり、その権利の内容のことを、一般的に、"無体財産権"とか、"知的所有権"とか、"知的財産権"などと呼んでいます。

 著作権法に基づく"著作権"、特許法に基づく"特許権"(発明)、商標法に基づく"商標権"(ネーミングやマーク)、意匠法に基づく"意匠権"(デザイン)などの種類があります。

  "著作物"や"美術品"などは、著作権法に基づいて(登録しなくても)当然にその著作や美術品を、その創作者やその承継者が独占的に使用できる権利("著作権")を所有するものとされていますが、特許権や商標権や意匠権などは、登録をしないと、その権利が認められません。
* 一部の外国の場合には、自己の著作物であることを明示しておかないと、その権利が保護されないということもあるようです。

 コンピューターソフトウェアーも、"著作権"の対象であるものとされています。

 以上のような"知的財産権"を所有している者は、法律の手続にもとづいて、独占的にその創作物のその全部または一部を、譲渡したり、貸したりすることができることになっています。

 また、"知的財産権"は、権利の存続期間(保護される期間)が、たとえば公表後50年間などのように、法律で定められています。


 讓渡契約や賃貸契約などの法律上の行為を自ら行う場合に、その行為の法律上の効果を自己に対して確定的に帰属させることができる能力−"行為能力"についての法律的な法則性

   以上のようなさまざまな財産権を、自身が契約によって法律上有効に取得したり、逆に法律上有効に讓渡したり、賃貸したりするためには、その行為をする人が、"行為能力"のある人であることが必要だとされています。

* この行為能力の有無は、基本的に自然人の問題です。

** "讓渡契約や賃貸契約などの法律上の行為"といいましたが、一般的には、"法律上の効果の発生を目的とする意思表示を内容とする行為"が問題になり、このような行為のことを、"法律行為"と呼んでいます。

 "行為能力"ある人とは、未成年者ではなく(つまり成人であって)、"成年被後見人"でも、"被保佐人"でも、"被補助人"でもない人、と定められています。

 未成年者が自ら有効な契約などをするためには、親や、未成年後見人など、未成年者の"法定代理人"(本人の意思にではなく、法律の規定に基づいて指定された"代理人") の同意が必要だとされており、その同意がない行為は、法律上取り消すことができることになっています。

 ただし、小遣いや学生の生活費など、親からその使用をまかされた金額の契約などについては、未成年者単独での契約も有効であるとされています。

* "成年被後見人"は、精神的な障害のために判断能力を恒常的に欠いていると判断される人で、民法の規定に基づいて、裁判所の審判によって、その人のために法律行為を有効に代わって行う職務を行う"成年後見人"を選任してもらった人です。
 "成年後見人"は、"成年被後見人"の法定代理人です。

 "被保佐人"は、同じく精神的な障害のために判断能力を著しく欠いていると判断される人で、民法の規定に基づいて、裁判所の審判によって、その人のために一定の重要な行為を行うについて法律上有効なものにするための同意をしたり、同意のない行為の法律上の効力を取り消すなどの職務を行う"保佐人"を選任してもらった人であり、
 また"被補助人"は、同様に、判断能力が不十分だと判断される人で、その人のために特定の重要な行為を行うについて法律上有効なものにするための同意をしたり、同意のない行為の法律上の効力を取り消すなどの職務を行う"補助人"を選任してもらった人です。


 行為能力のない人("制限行為能力者")が自ら行った、その行為の法律上の効力が生じるために必要な要件(法定代理人の同意など)を欠いた法律行為は、基本的に、その法律上の効力を取り消すことができることになっています。

   ただし、行為能力のない人("制限行為能力者")が、自分で行為能力を持っている者であると信じさせるために相手方を騙したような場合には、その行為の法律上の効力を取り消すことはできないとされています。

 行為能力のない人("制限行為能力者")が自ら行った、その法律上の効力を取り消すことができる行為については、その相手方が法定代理人に対して、一定の期限をきってその行為の法律上の効力をを認めるかどうか問い合わせることができ、その結果、法定代理人が認めたり、返答がないときは、有効なものに確定します。


 「代理人」と「代理権」と「代表者」と「代表権」

 契約を締結することなど、法律行為を行うことについては、その契約をする本人が、"代理人"を選んで、法律上でも有効に、自分に代わってその代理人にその契約を締結をしてもらう、ということができることになっています。

   代理人が、本人から与えられた権限内で、本人のためにすることを相手方に示して、本人に代わって契約条項の合意などを行うと、その契約条項の合意の法律上の効力は、(代理人ではなく)本人に帰属することになっています。

 本人のために代理人の行うこのような行為の、法律上の効力を、"代理"と呼び、このような行為のことを、代理行為と呼んでいます。また、代理人が代理行為を行うことができる権限の範囲のことを、"代理権"と呼ばれています。

 代理人の代理権の範囲は、法定代理人の場合には法律行為の全体に渡るものですが、本人が選んだ代理人の場合には、本人から与えられた範囲であり、多くは、本人と代理人との間の、代理行為を委託する契約によって定められています。

   相手方が代理人を立てた場合には、本当に代理人かどうか、どの範囲で代理できるのかを、電話などで確認するほか、重要な契約などの場合は、権限範囲の明確な代理行為を委託した証明書となる"委任状"などをもらい、さらにその委任状に押した印鑑の印鑑証明書などをもらっておく必要があることもあります。
(後になって"法律上の手続"を取らなければならないようなときのための、証拠を取っておくわけです。明確な内容の書類の証拠がないと、"代理"の証明はとても困難になります。)

   "法人"が契約をする場合など、法人が法律行為をするときには、その法人の正規の"代表者"が、その法人を"代表"して行うことになっています。

  代表は、代表者が、本人の法律行為の全体に渡って本人を代理する場合に、代理に代えて使われる用語です。

 法人の正規の代表者は、その"法人登記情報"によって確認することができます。

* 会社の場合には、会社登記情報として、"商業登記法"に基づいて登記されている情報ですが、法人登記情報に準じた扱いがされています。

 主な権利の確保(保全)の方法

 売買契約などに基づいて取得した財産権を、その帰属について紛争を予防し、紛争が生じるような場合に備えて確保しておく方法("保全"方法)は、

1) 不動産上の権利では、その権利の登記を受けることと、"占有"を継続していること、
2) 動産では、契約書・領収書を保持しておくこと、
3) 債権では、その権利を証明する契約書類を保持しておくこと、
4) 譲り受けた債権では、債権譲渡通知を元の債権者から債務者にしてもらって、その証明を保持しておくことと、元の債権を証明する契約書などを保持しておくこと、
5) 会社の(共同)所有権である株式などでは、株券の所持または株主名簿の書換の証明書を保持しておくこと、

などになります。



 (4)「経営組織」の「所有者」と「経営者」と「(被)雇用者」−これらの基本的な法律的法則性

 「経営組織」の「所有者」は誰か、そして「経営者」と「(被)雇用者」との関係は、どのようなものか
 "経営組織"は、"経営"が継続的に行われている大小の人々の組織(ただし一人の場合を含む)の意味であり、この場合の経営とは、少し長くなりますが、次のようなものだと考えることが可能です。

 「経営とは、人々が、各自自分の人生の経済的要件(生きて生活していくために必要な−衣食住など必須の物質的要素を中軸とした−要件)をよりよく確保していくためにさまざまな産業に組織立てられつつ分化してきて行なっている活動(経済的活動)の中で、自分自身が従事していない(他の一つ一つの)産業部分(職業ないし職)の仕事の成果を取得していくために、自分自身が従事している職の仕事の成果を他の職に従事している人々に対して、(そのための基本的な媒介手段としての金銭を介在させて)交換的に供給していく活動を、組織立てて行なっている、その組織を維持していく活動部分のことを指す言葉である。」

 そしてその組織は、一般的に経営組織といってよいと言えるので、経営とは、「経営組織を維持していく、さらには必要に応じて拡幅していくための活動である」と言ってもよいと考えます。

 そして、世の中の人々のあらゆる経済活動と、経営と、経営組織との関係については、要約して、次のように言うことができます。
「あらゆる経済活動は、今日、基本的には、経営が継続的に行われている大小の人々の組織、すなわち経営組織を一旦経由することを通して行われている。」

 経営組織は、工場や店舗や事務所や機械設備や一定の資金などの財産を(賃借や消費貸借によってであっても)継続的に保有することが必須であり、その保有権限がないと経営組織を創造して(立ち上げて)、維持していくことはできないと考えられます。

 経営組織の"所有者"とは、このように経営組織を維持していくために必要なその経営組織そのものの財産を、単独であるいは共同で保有する権限を持っている人(自然人または法人)のことだと言えます。(経営組織の事業・経済活動の成果は、人を基準にして見ると、ごく特殊な−経営組織のこのような所有者とその経営組織の経営者との−契約を除いて、経営組織のこのような所有者に帰属することに−契約上及び法律上で−なっています。)

* 経営組織の所有者のことを、"資本家"と言ってもよいかもしれません。個人一人経営組織の場合にも、自身の経営組織の所有者としての面で見れば、このように言えるでしょう。ただし、少なくとも、経営組織の中に公的経営組織を含めて考える場合には、不適切です。

 個人経営組織では、多くはその個人がその経営組織の所有者ということになります。(この場合には、その個人が経営組織そのものをも構成しているわけですが、経営組織である自身と、そうでない、その組織の構成員としての自身とを、切り離して見ていくことに実際の経営ではなっています。そのように見ていかないと、経営維持が困難になってきている時代です。この場合には、自身の経営者としての面は当然含み、被雇用者の面を含む場合もある、と言えるかもしれません。)

 法人の経営組織では、その所有者は、その法人の成立の根拠になっている法律と、その法人の根本規則である"定款"などに基づいて、会社の場合には株主または社員、事業協同組合の場合には組合員、などになります。

 経営組織の"経営者"は、その経営組織の経営についての基本的な意思決定権限を(法律上)持つその経営組織の中の機関(人または人の組織)であって、経営組織の所有者自身が経営者である場合もあり(一人経営組織の場合は当然そうなります)、また経営組織の所有者が委託したことに基づいて、その機関や、他人がその権限を持っている場合もあります。

 そして、(被)雇用者は、その経営組織が個人経営組織であればその経営者との間で、また、その経営組織が法人であれば、その法人との間で、"雇用契約"(すなわち、一方が相手方に対して、[労働基準法の定める範囲でのその指揮・指図下で]労働に服することを約束し、これに対して相手方が報酬を支払うことを約束する契約)を締結して、その経営組織に属してその職の活動を行っています。

 * 雇用契約についての法律は、民法623条から631条までにその基本が定められてあり、他に、労働基準法(等)に、主に労働者(勤労者)の地位を守ることを趣旨とした法律規定があります。それらの法律の条文は、そのまま読めば概ね理解できる言葉で述べられていると思います。


 「経営組織」の経営継続と、「所有者」と「経営者」の引き継ぎ、そして「(被)雇用者」との雇用関係−これらの法律的な法則性

 経営組織の財産保有権の「贈与」・「相続」

 経営組織の財産保有者(所有者)が、引き継がれて、交替するという場合、個人経営組織であれば、その経営組織の財産の総体を(あるいはその抽象的な 保有割合である"持分"を)、"贈与"されたり、"相続"したりすることによってその引き継ぎがなされることがほとんどです。

 この場合、個人経営組織であれば、通常では、その経営組織の"経営者"の法律上の地位も同時に、(その権限に伴って)贈与されたり、相続したりしたりして、引き継がれることになります。

 法人経営組織の場合は、経営組織の財産保有者(所有者)が、贈与や相続などに基づいて引き継がれて交替するときに、その経営組織の"経営者"の法律上の地位が、その引き継いだ経営組織の所有者の意向と権限に基づいて、変更される場合もありますが、されない場合のほうが多いようです。


 「経営組織の譲渡(売買)」

 相続や生前贈与による場合のほか、その経営組織の財産の総体が、"売買"契約に基づいて、その買主に引き継がれるという場合もあります。

 これは、一人個人経営組織の場合では、身内の後継者がいないようなときに、行われることが多いものです。

* その経営組織が法人である場合には、その財産保有権の分割的割合である株式や、出資持分の、全部の売買契約に基づいて、というかたちで、その買主に引き継がれます。

** 経営組織の所有者が、その経営組織の財産の一部を、その基本的な供給商品類を単位にして、その買主との間で売買契約をして、それを引き継がせる、という場合もあります。"営業(の一部の)讓渡"と呼ばれています。

 経営組織の自発的消滅−「廃業」と「解散」・「清算」・「清算結了」

 経営組織の経営者が、その経営組織の経営をやめたい、という場合に、その経営組織の経営を引き継いでくれる人や組織がないときには、その経営組織の自発的消滅−すなわち廃業−をすることになり、最終的にその経営組織の所有者に対して、その、経営者自身の権限を戻す(契約をして実行する)ことになります。

 この場合には、通常、一定の時点までにその経営組織の経営活動を終了させていき、その一定時点に残ったその経営組織の財産の総体の"占有"権を、最終的にその経営組織の所有者に対して、引き継ぐ(返還する)ことになります。

* 一人個人経営組織の場合、自分自身がその二つの面を合わせ持っていますが、この場合でも実際の経営上でも、それぞれの面をそれぞれ実行していくかたちでなされています。(いわば、一人が二役を行ってなされています。)

 このような、一定の時点までにその経営組織の経営活動を終了させていき、その一定時点に残ったその経営組織の財産の総体の"占有"権を、最終的にその経営組織の所有者に対して、引き継ぐ(返還する)までの活動のことを、"清算"と呼んでいます。

 個人経営組織の場合、この"清算"は、あまり明確なものとしては行われてはおらず、法律上のこの清算に関する規定も、"所得税法"のこれに関する規定を除いては不明確ですが、法人の場合には、"商法"にも、"法人税法"にも、この"清算"についての明確な規定を定めています。

 法人の場合には、その経営組織の自発的消滅−すなわち廃業−をする場合には、まず、総会などのその法人の法律上の最終意思決定機関で、その法人の"解散"決議をします。

 すなわち、"解散"とは、その法人が清算活動(清算手続)に入ることを決定することです。

 法人は、解散決議をすると、それまでの経営者である"取締役"・"代表取締役"・"理事"・"代表理事"などは、その法人を代表して経営活動を行う資格(地位)を失うことになっているため、あらたに、"清算人"を選任することになります。これは、法人の場合だけのことです。

* それまでの取締役や理事などが、そのまま清算人になるという法律上の規定がある場合がありますが、特に中小零細法人の場合、あらたに清算人が選ばれて就任することが多いようです。

** 法人の解散と、清算人の就任の事実について、法人登記をしておく必要があることになっています。

 清算手続は、その経営組織が法人の場合には清算人が、その経営組織が個人の場合には経営者自身が、その経営組織の債権者や債務者に対して、その債権については請求をして実現させ、債務については履行をして消滅させて、すべての債権債務が消滅した最終時点に残ったその経営組織の財産の総体の"占有"権を、そ経営組織の所有者に対して、引き継いだ時に、終了することになります。

 清算手続が終了することを、"清算結了"と呼んでいます。

 法人の場合には、清算結了した後に、その法人の法律上の最終意思決定機関(総会など)で、清算結了手続についての報告をして、その承認を受ける必要があることになっています。

 さらに、法人の場合には、その承認後、その法人の清算結了の登記を行う必要があることになっており、その清算結了登記をした時点で、その法人は完全に消滅したことになっています。


 経営組織の機能停止と非自発的消滅−「倒産」・「破産」と「再生」等

 "倒産"は、経営組織が、非自発的な理由によって、その経営を継続していくことができなくなった状態と言えます。

 経営組織の倒産の基本的原因については、このサイト中の「就職勤務・起業・経営技術読本」の索引項目で確認していただくことができますが、大まかにいえば、「継続的"収益"見込金額に対して、支払い期日後の支払をすべき"負債"額が膨らみすぎて、支払約束が守れないことが何度か重なった結果、取引関係者の"信用"を失ってしまうこと」だと言えます。

 経営組織が倒産しても、その経営組織の経営を維持していくことが可能になりうる継続的な収益見込が立つのであれば、基本的にその経営組織の再建(経営継続ができるようにすること)は可能です。

 この、経営組織の再建のためには、
1) 主な債権者との間で、任意に支払延長や債務の一部カットなどの契約を結び直して行う方法
  2) 法律上の"特定調停"や"(民事)再生"や、大会社などで行われる"会社更生"などの手続を使って、一部は法律上の強制力を伴うかたちで、行う方法
などがあります。

 いずれも、「その経営組織の経営を維持していくことが可能になりうる継続的な収益見込が立つ」ことが必須条件です。

 その経営組織が倒産して、再建ができない場合には、その経営組織は、事実上の"破産"状態になって、基本的には法律上の"破産"手続を取らない限り、その経営組織の倒産の結果超過債務を負担することとなった経営組織の所有者または経営者に対して、債権者に債務履行請求を継続されていき、財産や収入があった時点で"民事強制執行手続"が取られるような状態が継続していくか、債権者の側で事実上債務履行請求をあきらめてしまう結果になっていくか、それらが重なった状態が継続していくことになります。

 法律上の"破産"手続は、債権者や倒産状態になった債務者から裁判所に申したてて行われる、その経営組織(個人の場合を含む)の財産の最終的な清算をするための手続で、裁判所が監督をする一定の手続に基づいて、破産申立をした時点のプラスの財産を、生活のために必要な最小限の部分を除いてすべて、総債権者に対して、法律上の基準に従って配当する手続です。

 個人(自然人)の場合には、破産手続が終了すると、財産隠しなどの一定の行為がない限り、(財産零の所からやり直しをすることができるようにするために)それまでの債務のすべてについての支払義務を法律上免れることができるようになる、"免責"を受けるための手続を、裁判所に申したてることができることになっています。


 経営組織と被雇用者との「雇用契約」関係と、「労働法」関係

 経営組織とその被雇用者との間では、その経営組織が個人の場合であればその経営者と、また経営組織が法人であれば、その法人との間で、民法上でそれに関する規定がある"雇用契約"に基づいて、労働が行われ、その報酬が支払われることになります。

 しかし、今日では、雇用契約のほとんどについて、"労働基準法"や"労働者災害補償保険法"や、"雇用保険法"や、"健康保険法"などの、"労働法"と総称される法律が優先的に適用されることになっており、これらの法律は、その法律違反について罰則も適用される"刑事法"の部分も含んでいます。

* 経営組織が法人の場合、雇用契約は、法人と被雇用者との間で締結されますが、その経営組織の所有者(株主・出資社員など)も、実質的にはその所有者がその雇用契約の当事者だと判断されて、報酬支払債務を負う場合があることも、あります。これは、その法人が法人としての実体を持たず、実質的にその所有者である(かつ経営者である場合がほとんどである)株主などに対して、民法や法人成立の根拠法律の解釈によって、認められているものです。

** "身元保証に関する法律"という法律では、雇用契約の際に被雇用者の親などとの間で締結される"身元保証に関する契約" の法律上の効力について、その身元保証人の負担があまり過大なものにならないようにする規定がなされています。



 (5)公に罰せられるべき行為と罰則の適用−「刑事法」の法律的法則性−基本的なものの幾つか

 「民事法」と「刑事法」

 本サイトの「法律的紛争の予防・解決についての入口部分情報」で、"「民事法」と「刑事法」との相違の認識"の重要性について強調しています。

 ここでそれをさらに要約すれば、"刑事法"は、権限を持った者が行うことになる"刑罰"の条件と、内容と、執行のための手続についての基準を定めた法律で、"民事法"は、基本的に対等な私人間の紛争解決のための、私人間の権利・義務に関する事項についての基準を定めた法律で、それぞれ法律の基本的な目的が違うので、それを混同していては、目的とする結果を得られない、ということです。

 以下、この(5)項では、それらが刑事法上の問題だということをあらためて確認しておきたい、民事法上の権利義務関係との関連性が強い(罰せられるべき行為である)主な犯罪行為名と、その内容と、その犯罪行為について科されることになる刑罰について述べます。

 なお,以下に述べる刑罰は、罪が重なったりすることで加重されたり、事情によっては刑を課さなかったり、減軽されたりすることもありえます。

 また犯罪行為に着手してその目的を達しなかった場合−未遂(罪)−にも,刑罰が課される場合がありますが、減軽されることがあります。

 さらに,犯罪行為に着手してのちに,自己の意思で中止した場合には,減軽されるか免除されることになっています。


「威力業務妨害(罪)」とは
 『威力業務妨害(罪)』とは、「威力を用いて人の業務を妨害した」行為で、その行為をした者は、「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」に処せられます。

「脅迫(罪)」とは
 『脅迫(罪)』とは、「生命,身体,自由,名誉又は財産に対し」あるいは「親族の生命、身体などに対し害を加える旨を告知して人を脅迫した」行為で、「2年以下の懲役又は30万円以下の罰金」に処せられます。

「強要(罪)」とは
 『強要(罪)』とは、「生命、身体、自由、名誉もしくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、または暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害した」行為で、「3年以下の懲役」に処せられます。

「詐欺(罪)」とは
 『詐欺(罪)』とは、「人をあざむいて、財物を交付させ、あるいは財産上不法の利益を得た」行為で、「10年以下の懲役」に処せられます。

「背任(罪)」とは
 『背任(罪)』とは、「他人のためにその事務を処理する者が自己もしくは第三者の利益を図り、又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をして、本人に財産的損害を加えた」行為で、「5年以下の懲役又は50万円以下の罰金」に処せられます。

「恐喝(罪)」とは
 『恐喝(罪)』とは、「人を恐喝して、財物を交付させ」あるいは「財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させた」行為で、「10年以下の懲役」に処せられます。

「横領(罪)」とは
 『横領(罪)』とは、「自己の占有する他人の物」または「自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた物を横領した」行為で,「5年以下の懲役」に処せられます。「業務上」委託を受けて占有していた物を横領した場合には、「10年以下の懲役」に処せられます。

「暴行(罪)」とは
 『暴行(罪)』とは、「暴行を加えた」が、「人を傷害するにいたらなかった」行為で、「2年以下の懲役もくしは30万円以下の罰金又は拘留もしくは科料」に処せられます。

「傷害(罪)」とは
 『傷害(罪)』とは、「人の身体を傷害した」行為で、「10年以下の懲役又は30万円以下の罰金もしくは科料」に処せられます。また、「身体を傷害し、よって人を死亡させた者は,2年以上の有期懲役」に処せられます。

「私文書偽造・変造(罪)」とは
 『私文書偽造(罪)』とは、「行使の目的で,他人の印章もくしは署名を使用して権利、義務もしくは事実証明に関する文章もしくは図画を偽造し、または偽造した他人の印章もしくは署名を使用して権利、義務もくしは事実証明に関する文書もしくは図画を偽造した」行為で、「3月以上5年以下の懲役」に処せられます。
 「他人が押印しまたは署名した権利、義務または事実証明に関する文書または図画を変造した(「私文書変造」と呼ばれる)」行為をした者も、同じ刑罰が課されます。

「高金利契約に関する罪」とは
 "出資取締法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)"の、『高金利契約に関する罪』については、
 「(同法第5条で) 金銭の貸付けを行う者が、年109.5パーセント(2月29日を含む1年については年109.8パーセントとし、1日当たりについては0.3パーセントとする。)を超える割合による利息(債務の不履行について予定される賠償額を含む。以下同じ。)の契約をした」ときは、「5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金」に処され、「又はこれを併科」されることになっています。

また、「(同条2項で) 前項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年29.2パーセント(2月29日を含む1年については年29.28パーセントとし、1日当たりについては0.08パーセントとする。)を超える割合による利息の契約をした」ときは、「5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金」に処され、「又はこれを併科」されることになっています。

 さらに、「(同条3項で) 「前2項に規定する割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した」者は、「5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金」に処され、「又はこれを併科」されます。

「ストーカー行為の罪」とは
 "ストーカー行為等の規制等に関する法律"の、『ストーカー行為の罪』については、
 「(同法第2条で) この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。
一  つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、又は住居等に押し掛けること。
二  その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
三  面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。
四  著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
五  電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ若しくはファクシミリ装置を用いて送信すること。
六  汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。
七  その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
八  その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置くこと。」と"つきまとい等"の行為を規定したうえで、
 「(同条第2項で) この法律において「ストーカー行為」とは、同一の者に対し、つきまとい等(前項第一号から第四号までに掲げる行為については、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る。)を反復してすることをいう。」と定め、
 「(同法第13条で) ストーカー行為をした」者は、「六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金」に処する。
 さらに、「(同条第2項で) 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。 」と定め、
 さらに「(同法第14条で) (同法第5条に定める)禁止命令等(第五条第一項第一号に係るものに限る。以下同じ。)に違反してストーカー行為をした」者は、「一年以下の懲役又は百万円以下の罰金」に処する。
 ほか、「(同条第2項で) 前項に規定するもののほか、(同法第5条に定める)禁止命令等に違反してつきまとい等をすることにより、ストーカー行為をした」者も、「同項と同様」とするとされ、
 さらに、「(同法第15条で) 前条に規定するもののほか、(同法第5条に定める)禁止命令等に違反した」者は、「五十万円以下の罰金」に処する。
 ものとされています。



 (6)「民事法」上の「紛争の法律的解決」−民事裁判と民事強制執行と、その他の法律的解決

 民事法上の"紛争の法律的解決"の最も基本的なものである、民事裁判手続と民事強制執行手続については、上記(1)から(4)までの中で民事法上のさまざまな権利・義務関係について述べた部分で、それらの権利・義務の種類に応じたこれら民事裁判手続と民事強制執行手続の基本的なものと、その流れについて述べています。

 ここでは、その要約と、関連する"紛争の法律的解決"のための手続の一つである、"民事保全手続"と、民事執行手続や民事保全手続など、人の保有する個別的な財産に対してではなく、人の保有する財産の総体に対して取られる手続である"民事再生"、"破産"などの倒産処理手続の(これもすでに述べたものの)要約と、最後に、被相続人の保有する財産の総体に対して取られる法律的解決の手続の一種である、"相続の限定承認"手続の基本的な部分について、述べます。

* 要約的なものなので、かなり抽象的な文章になってしまいますが、読みとおしてもらうことができれば、何か必要な事態が発生した機会での対応の仕方の認識が深まる、一つのきっかけになると考えます。

 私人間での直接的な権利・義務の関係のことを、"民事法律関係"といい、そのような私人間の権利・義務に関して、紛争が生じた場合に、その権利・義務の帰属に関して裁判所の判断を求める手続を、"民事裁判手続"といいます。

 このような、私人間での直接的な権利を実現させるために、判決をもらった上で裁判所に申し立てて、その権利の実現を物理的な強制力を伴わせてでも、強制的に実現させる手続のことを、"民事強制執行"手続と呼んでいます。単に"強制執行"と呼ばれたり、あるいは"民事執行"とも呼ばれたりすることもあります。

 民事裁判手続や、民事強制執行手続は、その権利を持つ人、又はその代理人が、直接裁判所に申立をして開始されることになっています。

 "民事保全手続"は、要約していえば、"民事保全法"に基づいて、基本的に民事裁判手続で権利義務関係が当事者間で確定するまでの間の、その必要性が認められるような場合に、一定の証拠に基づいて、一定の保証金を積ませたうえで、権利者(権利を保有する人)のための一時的な法律上の権利義務関係を、権利者に対して確保しておくための手続です。

 民事保全手続には、
1) 債権者の「金銭の支払いを目的とする債権について、(民事)強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、または強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるとき」に、債権者が裁判所に申したてて行われる、民事裁判手続で判決がされてその債権が確定するまでの間、債務者の特定の財産権に対してその財産権を仮に確保しておくための手続である、"仮差押"(命令及び執行)と呼ばれる手続と、

2) 「その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるとき」に、債権者が裁判所に申したてて行われる、民事裁判手続で判決がされてその債権が確定するまでの間、紛争の対象物である"係争物"に関して、仮の当事者間の権利義務関係を権利者のために定めておく、"係争物に関する仮処分"(命令及び執行)と呼ばれる手続と、

3) 「争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」に、"仮の地位を(法律上)定める仮処分"(命令及び執行)と呼ばれる手続、とがあります。

"民事再生"の手続は、倒産のおそれがあるような経営組織としての法人、及びそのような経営組織としてみた個人の保有する財産の総体に対して"民事再生法"に基づいて取られる、再建のための法律上の手続で、そのような、倒産のおそれがあるような経営組織としての個人や法人が、裁判所に申立をして、担保を持つ債権者を別として基本的に債権者間で平等にその債務の全体の一定割合について免除してもらうこととし、その残りの債務額について返済の計画(再生計画)を立てて、債権者全体の一定割合の同意を得て、裁判所の認可を受けることによって、その再生計画での権利義務内容に、法律上の効力を発生させるという手続です。
  * 再生計画の認可の効力は、債務者の保証人には及ばない(保証人の保証債務が主たる債務に応じて縮減されることはない)ため、保証人がいる場合、再生手続は、そのことも考えて取らなくてはならないことになります。

 "破産"手続は、倒産したあるいは倒産のおそれがある経営組織としての法人、及びそのような経営組織としてみた個人の保有する財産の総体に対して、"破産法"に基づいて取られる、清算のための法律上の手続で、債権者や、そのような、倒産のおそれがあるような経営組織としての個人や法人が裁判所に申したてて、その経営組織のプラスの財産権を売却処分し、担保を持つ債権者にはその優先権の順序に応じて、その他の債権者間では基本的に平等の割合でその売却処分した金額の配当を得させる、という手続です。

 破産手続の完了後、その個人に重大な責任があったのでなければ、破産までの債務について裁判所で"免責"を受けることができ、免責を受けると破産完了時点までの債務も基本的に消滅します。

 ただし,破産手続に対する資産隠しなど重大な責任のある行為が行われいてた場合には、(「犯罪」として「刑罰」を受けることがあるほか)免責は受けられず債務は残ります。
* 破産手続の効力も免責の効力も、債務者の保証人には及ばない(保証人の保証債務が主たる債務に応じて免責されることはない)ため、保証人がいる場合、そのことも考えて破産手続を取らなくてはならないことになります。


 "相続の限定承認"手続は、プラス財産の範囲で被相続人の相続財産を引き継ぐことにする、という民法上の手続です。相続放棄をしない相続人の全員から、裁判所にその手続を選択する旨を届け出て行われます。ただし、税金の上で重要な結果が生じる場合があるため、税理士さんなど専門家に相談の上行うことが必要だと言われています。




(7) 社会的弱者を支援・保護する目的・趣旨を基本的内容として明示している法律関係で

 ここでは、いくつかの基本的な法律名を指摘したいと思います。成人した誰もが名前を知っていると思われる法律でも、その法律が、この、 社会的弱者(何よりも社会・人間関係上の原因で最低限の人間らしい幸福な人生をも阻害されている人、とその意味を定義します。)を保護・支援する趣旨・目的を基本的内容として明示しているものだということを、確認していただきたいという意味で、その趣旨を付記して、指摘したいと思います

 それらの題名の法律が、その題名に関する社会関係上での、相対的にでも社会的弱者を保護・支援する趣旨・目的を基本的内容として明示しているものである場合、その法律名と、その最も基本的な、趣旨・目的を記載した定め(目的文)や、その第1条などに記載される定めを認識しているだけで、そのような立場に置かれたときの力になると思われるからです。(その詳細な内容は知らなくても。)

 それらに関係する法律があるのではないか、ということや、それらの法律の内容に関して、専門家に援助を求める手がかりにもなる、とも考えられます。

・「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」
・「国民健康保険法・国民年金保険法その他の各種"社会保険法"の範疇に含まれる法律」(税法で賄えない政府の運営と経営のための定めをしている法律であって、医療・老齢化などに関しての社会的弱者の保護・支援をもその基本的目的に明示している法律)
・「社会福祉法」
・「身体障害者福祉法」
・「知的障害者福祉法」
・「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」
・「生活保護法」
・「児童虐待の防止等に関する法律」
・「児童売春、児童ボルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に間する法律」
・「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」
・「障害者基本法」
・「労働基準法」
・「労働組合法」
・「労働者災害補償保険法」
・「利息制限法」
・「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」
・「貸金業法その他の各種"業法"」(その産業による社会的弱者を保護・支援する趣旨を基本的内容とすると明示して各種の業界に関しての定めをしている法律)
・「消費者契約法」
・「割賦販売法」
・「特定商取引に関する法律」
・「ストーカー行為等の規制等に関する法律」
・「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」
・「刑法」(公的に罰してもらうことのできる行為について定めた法律として)
・「日本国憲法」(基本的人権・幸福追求権などを定めた法律として)
など。



(8) 政府(中央政府及び地方政府)の運営・経営と、国際間の協調に関する法律関係で

 ここでは、いくつかの基本的な法律名を指摘したいと思います。成人した誰もが名前を知っていると思われる法律でも、その法律が、この、 政府(中央政府及び地方政府)の運営・経営と、国際間の協調に関する法律関係について定めているものだということを、確認していただきたいという意味で、その趣旨を付記して、指摘したいと思います。

 「日本国憲法」(個人の幸福追求権に関する定めのほか、中央政府の運営と経営に関する最も基本的な方法を定めている法律として)
・「地方自治法」(地方政府の運営と経営に関する最も基本的な方法を定めている法律として)
・「所得税法その他の各種"税法"」(政府の運営と経営のための公租公課に関する基本的な定めをしている法律として)
・「国民健康保険法・国民年金保険法その他の各種"社会保険法"の範疇に含まれる法律」(税法で賄えない政府の運営と経営のための公租公課に関する定めをしている法律として)
・「国際連合憲章(名での条約)、日本国と中華人民共和国との間の平和友好条約、その他の各種"条約"」(国際間の協調に関する法律関係について定めている法律として)
など。



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