(『就職勤務・起業・経営技術読本』8)
8 自立経営維持に必要な会計技術の内容と水準


  前書き(この技術の基本的な考え方について)

 経営組織が、自立してその経営を維持していくためには、その経営組織が継続的にそれを持ち、そこから経営組織の各職に属する人々への−その仕事の−代金の配分をしていくことになる、"その経営組織自身の、金銭を含めた財産全体の状況"の概数を、継続的に認識していることが、まず必要になるはずです。
 次に、その経営組織自身が−その経営組織の各職(部門)に属する人々の仕事を通して−生み出してその供給代金を確保していく、"その経営組織の商品供給による代金の確保の状況"の概数を、必要なかぎり継続的に認識していくことが必要になるはずです。

 * 大規模な経営組織も、個人事業者が、自分だけですべての仕事を行って経営している個人事業経営組織も、同じです。
 他人を雇用していない個人事業者が自分だけですべての仕事を行って経営している場合の経営組織とは、結局自分自身のことですが、しかし、自分自身を経営の観点から見ていくことが必要であって、この場合、自分自身を経営の観点から見た場合には、"経営組織"と言うことができるし、言わなければならない、と言えます。

 個人事業者が従業員を雇用した場合には、その従業員を含めたものが経営組織ですが、事業者自身がすべてのその事業経営に関する仕事をする場合でも、従業員としての仕事の部分と、事業主(=経営者としての仕事の部分の、両方の仕事を自分自身でしていると把握すべきです。自分自身がこれを合わせたものである、すなわち"経営組織"'である、というように見ていく必要があります。

 事業者自身がすべてのその事業に関する仕事をしている場合、経営者としての仕事の部分と、従業員としての仕事の部分の、両方の仕事を自分自身でしているということを認識していないと、会計技術についての説明も、わかりにくくなってしまいます。その結果として、実際の経営上でも、的確な行動の選択ができなくなってしまいます。 


 経営組織にとって、何よりも経営計画での目標値から見た、"自己の保有している財産の(他の経営組織からその仕事の成果[製品・商品・サービス]を取得していくために必要な金銭の即時的支払可能性を含む)大まかなものでもその種別構成毎のその数値と、自らの経営組織がその仕事の成果(製品・商品・サービス)として他の個人や経営組織に供給する契約を確保していくことを通してのその代金金額確保の状況の数値(どのような製品・商品・サービスが、どのくらいの仕事の時間を費やして供給されてその代金金額が確保されているかの状況の大まかなものでものその数値を含む数値)の、それぞれの−繰り返しになりますが概数的なものでも、の−把握が、常に必要ですが、何よりもこれらの数値の的確な(正確性と確実性の高い)把握ために必要な技術が、会計技術です。

 この会計技術に基づいて作成される決算書類・資金収支計算書などの文書(表形式の文書)は、何よりも、経営上でのそれぞれの時点で、経営計画目標達成のために、どの部分にどのように力や取組を集中させていくべきかという、取組み方法上での活用のために活用すべきものです。

 * ここで、"概数"というのは、継続的な認識としては、それで十分だからであり、また、実践的にも、常に大量の細かい数字を記憶しているなどということは、不可能で必要のないことだと考えられるからです。

 ただし、経営計画の目標値に対して、その時々に応じて、経営上でどの部分に力や取組を集中させていくべきか、という取組方法の検討をして有効な結果を得るためには、細かい数値が必要になると考えられます。


 "会計技術"とは、ここで前もって最大限要約して言えば、"「経営組織の経営計画から見てのそれぞれその時時点での経営内容のありよう」を、「その経営組織自身の金銭そのもの(を保有することによる即時的支払可能性)を含めた財産全体の状況」と、「その経営組織の仕事の成果(製品・商品・サービス)の供給との引き換えによる代金確保の状況」とを、その両方の観点から、必要なかぎり的確に把握して今後の経営組織の経営計画の達成への行動のインジケーター(方向や速度など指示計器)のように活用していくそのために

 その経営組織と、その経営組織以外の経営組織との間で生じるすべての取引の結果数値を、その取引の内容・性質とともに、その取引に介在させている金銭の数値によって記録していって、

 その経営組織の、経営計画から見てのそれぞれその時時点での経営のありようの全体を、「その経営組織自身の(即時的支払可能性のある金銭の数値を含む)財産全体の状況」と、「その経営組織の仕事の成果(製品・商品・サービス)の供給との引き換えによる代金確保の状況」との、両方の観点から把握していけるようにする、何よりもそのための技術である、と言えます。

 もっと縮約して言えば、会計技術とは、"経営上での、「インジケーター(すなわち航空機などで使用される方向速度等表示器)」を操作して、その数値の意味・内容を的確に確認しながら、経営計画目標達成のための取組実行をしていくことができるようにする技術"であると言えるでしょう。

 * 「取引」は、一般的には、"製品・商品・サービスと、その代金とを−売買したり貸借をしたりして−交換の契約をすること、そしてその結果として製品・商品・サービスを供給し、その代金・料金を受け取ること"、を言っています。

 しかし会計技術のうえでは、「取引」とは、このような一般的な意味での取引を含めて、「その経営組織が保有している総財産の金額の数値の増減変動を生じさせるすべての事象のうち(経営上役立つものとしての認識に基づいて)数値として把握できる一つ一つ、と言えます。

 たとえば、機械設備を使用していくとその劣化が進みますが、その劣化は、その経営組織の総財産の金額の数値を(他の経営組織へそれを供給した場合の代金金額の減少額数値として)減少させることになり、その劣化の一定期間内の度合いは数値として把握でき、この数値を総財産の金額の減少としてその決算書類などに反映させることは経営上有効なことになるため、「減価償却費」としての「取引」として記録して、集計する−そして一定時期毎に記録して集計していく−ことにしています。


 今日では、この会計技術は、基本的に"複式簿記"と呼ばれている技術が、その主な内容になっています。複式簿記の実行結果として作成される決算書類(表形式の文書類)と、それを活用しても作成できる、(即時的支払可能性を把握するための)資金収支計算書(やはり表形式の文書)の作成をするための技術が、この会計技術です。

 複式簿記と呼ぶのは、その簿記(取引の記録分類集計方法)によれば、取引の記録を、自己の経営組織の総財産の数値の変動を、資産(プラスの数値を付けうる財産)のみの数値の増減としてだけでなく、負債(マイナスの数値を付けるべき財産)の数値の増減をその中に含めて、つまり複式で把握することができるからだと言えます。

 その負債は、その経営組織が保有している総財産の数値の中に含まれている、一定期間後には他の経営組織にその保有が移動して総財産の数値からマイナスされてしまうことになるそのマイナスの見込み数値を示しています。


 
 そして、この会計技術の中の、取引の種類の分類ごとの集計計算などの、時間を大変に食っていた多くの仕事は、コンピューターの会計ソフトの操作で代えることができるようになって、簡単に、かつ、瞬時に行えるものになっています。

 しかし、コンピューターに会計ソフトの指示どおり取引の内容を打ち込んでいって、そのソフトを実行させて、その分類集計計算結果を決算書類に表示させることができるというだけでは、経営組織が自立してその経営を維持していくための、そしてさらに経営計画を的確に達成していくための会計技術としての、肝心な部分が欠けています。

 その肝心な部分とは、会計技術の実行結果の決算書を見れば、その経営組織のその時点の経営内容のありようを的確に把握できるのは、『その決算書によってその経営組織の一定期間内のすべてのどのような取引が、どのように整理・計算されて表示されているからなのか』"の、『』内の部分の、「内容・性質」の認識まで含めた認識です。

 その理由は、以上でも要点的に述べてきましたが、以下の本文で合わせて述べます。


 以下、複式簿記会計技術での要点的な知識と認識の部分を中心にして、自立経営維持に必要な会計技術の内容と、その水準について述べます。

* 前に第5章で述べたように、この読本の中で「知識」と「認識」という言葉は、その対象としては同じものを、体験(特に実践的な体験)の中で相対的に離れて見たときには知識と呼び、相対的に近づいて見たときには認識と呼ぶことにしています。

 それは、その知識を技術として活用しようとすると、その実践の体験の中で、その対象に近づいて見たときに使われる認識という言葉を合わせて使った方が、単に知識という言葉を使っているより、より適格な表現になると考えられるからです。

 特に機械に置き換えることができないような技術は、そのための知識を、単に知識として知っているというだけでは不足であって、それ以上に認識として活用できるように習得しているのでなければならないものです。



 
---「自立経営維持に必要な会計技術の内容と水準」本文---

 財産と、資産と負債と資本
 経営組織が、実際にその経営組織の仕事の成果(製品・商品・サービス)を、その顧客たちにに継続的に供給していき、その代金を継続的に確保していく、という活動を行っていくためには、基本的に、その活動を行っていくための本拠地となる場所、すなわち土地と、その上の建物やその付属設備と、その建物の中で使う机・イス・電話・パソコンなどの機械が、まず必要になります。

 これらの、土地・建物・設備・機械などの物質的なもの(物質的な対象)は、その経営組織が、それまでになんらかの方法で取得して蓄えている金銭で買い取るか、その使用代金を支払って借りるか、基本的にどちらかを選択して確保して、これを使用していく必要があります。

 
このような、"経営組織がその仕事の成果(製品・商品・サービス)の供給を継続していって、その代金を継続して取得していくために必要である、土地・建物・設備・機械などの物質的な対象のうちで、その経営組織と、他の個人や経営組織との間で金銭の金額を尺度にして「取引」の対象にできるもの"を、会計上、"財産"と呼んでいます。

* (繰り返しになりますが)「取引」とは、今日一般的には、"商品(製品・サービス)とその代金とを−売買したり貸借をしたりして−交換すること、又はそのような商品と代金との交換をすることの契約をすること"を言っていると思います。しかし会計技術のうえでは、このような一般的な意味での取引を(中心的に)含めた、その経営組織が持っている総財産の価格の変動を生じさせる、すべての"金銭の金額の数値として記録可能な、財産の増減変化を生じさせる事象の一つ一つ"のことです。


 また、物質的な対象は財産の基本的なものですが、それ以外にも、財産的価値のある、売掛金−すなわち、売上代金請求権−などの権利も、財産の中に含めます。

 * 正確に言えば、土地・建物などの物質的な対象も、それ自体というよりは、それに対する所有権・地上権・賃借権などの権利が財産であると言えますが、分かりやすさのために、それらの権利のうちの所有権については、その対象物の名前を取って、その(所有権である)財産の名前にしています。
 このことは、会計記録をするうえで混同しないために、また、それの裏面のことですが、法律上の紛争が生じたときに混同しないために、土地・建物として決算書類に表示されているのは、土地建物の所有権という権利であることを、ここで指摘しておきたいと思います。
たとえば、土地所有権の場合でも、使っていない土地所有権などで、他人がその権利を時効取得すれば、自己の所有権は失われてしまいます。その結果は、会計上では「取引」として、記録し、集計計算されることになります。


 経営組織の財産は、その経営組織自身がそれを使用することが有用であるのと同時に、誰がそれを使用する場合でも−その有用性の度合いはそれぞれ異なるにしても−有用あるために、他の個人や経営組織との間で金銭との交換取引が可能でありうるため、他の個人や経営組織との間での金銭の金額で記録・計算できる取引の対象となることができる、という性質を持っています。

 * その取引が成立する前の段階では、その経営組織の財産は、その地域での(それぞれ個々の財産の)一般的な、金銭との交換取引のその金額の平均値は計算可能であるため、そのような−その地域での取引の一般的な平均値(金銭との交換がなされる場所−市場[での平均値]価格)によって記録し、集計計算されています。


 
"経営組織の財産を、このような「他の個人や経営組織との間での金銭との交換取引のその金額の数として把握できる取引対象としての性質」の観点から見て、会計上、"資産"と呼びます。

* その財産を、その経営組織がそれを使用できるという有用性の観点から見て、"資産"と呼ぶことも一般的な意味としては可能ですが、しかし、その経営組織がそれを使用できるという観点から見て"資産"と呼ぶ場合には、その金銭的な大きさを、計算できる程度に測ることは実際上不可能になってしまいます。
 (パソコン1台が金何円というように、金銭的な数で評価できるのは、「取引」[金銭との交換取引−より全体的に見て、その個々の取引の総体を把握すれば、金銭を介在させての、他の経営組織の仕事の成果<製品・商品・サービス>との、自らの経営組織のその財産との交換取引]を前提にしているからです。付け加えて、その自らの経営組織のその財産も、自らの経営組織が他の個人や経営組織との間で自らの仕事の成果<製品・商品・サービス>を供給してそれと引き換えに取得してきた金銭の金額によって、蓄積してきたもので、経営計画実行・達成のための経営上からは、この点が肝心なことだ、と言えます。)

 しかし一般的には会計の本では、"取引対象としての価格の大きさ"の観点と"有用性の大きさの観点"の、両方を含む意味であると説明されています。考えやすい方で考えてもらって、実際上では差し支えないと思いますが、上記のことは認識しておいた方が、会計技術の習得上も、かえって分かりやすいのではないかと考えます。



 次に、経営組織の財産の中には、一定時期までには他の個人や経営組織に返さなくてはならないものや、他の個人や経営組織にその使用代金を支払っていかなくてはならないものがあります。
 たとえば、借りて使用している金銭や、借りて使用している土地建物などです。

 経営組織の財産の中には、このように、その財産に関して、他の個人や経営組織に対してなんらかの義務を負っているために、その資産としての性質の大きさ(金銭的な評価額)についての、マイナスになる性質を持っているものがあると考えられます。

 この、経営組織の財産の中に存在する(ことのある)、その財産に関して他の個人や経営組織に対してなんらかの義務を負っているために、その資産としての性質の大きさに対してマイナスになる性質も、その大きさを金銭の数値で測ることができます。

 たとえば、それを返さなくてもよいものとするためにそれを取得する代金や、その使用代金の合計額などで測ることができます。

 
このような、"経営組織の財産の中に含まれていて、金銭の尺度でその大きさを測ることのできる、その経営組織にとって他の個人や経営組織に対してなんからの義務を負っているために、その資産としての大きさに対するマイナスとなる性質"のことを、会計上、"負債"と呼びます。


 会計上の"資産"の大きさから、会計上の"負債"の大きさを差し引くと、その経営組織が持っている財産の、正味の(取引対象としての)大きさを測ることができると考えられます。

 
この、資産の大きさから負債の大きさを差し引いた、その経営組織が持っていると考えられる財産の正味の大きさのことを、会計上、"資本"と呼びます。

* 資本を、"純資産"と呼ぶこともできます。また、おおまかな表現ですが"純財産"と呼ばれることもあります。

 経営組織が、その持っている財産の総体について、常にこのように、資産・負債・資本に分けて認識していくことは、今日、その経営維持に不可欠の、重要な技術となっています。

 それは、このことによってその経営組織が、その経営の基盤的なものとなっている土地建物機械その他すべての財産について、使用代金を支払わずに永続的に使用することのできる財産を使っていっているだけでなく、それ以外の、その使用代金を他に支払っていかなければならないか、一定の時期までには他に返さなくてはならない(そしてもし使い続けるのであればその使用もしくは取得代金を払わなければならない)財産を使っているということを、常に認識していくことになるからです。

 そして、このように、経営組織が、その持っている財産の総体について、常にこのように、資産・負債・資本に分けて認識していけるようにするということが、複式簿記会計技術においても、まず第一の、出発点での基本的な認識になります。
 
 前に3章の末尾で述べましたが、経営組織と、その組織外の個人や経営組織との間の、(互いの、その仕事の成果である製品や商品やサービスの継続的な供給と、その仕事の成果の代金の継続的な取得とを基本的な内容とする)すべての取引は、その個々の取引を通して、その経営組織の、このような財産の総体のありように(その価格の総体・総額にも)変動を与えていきます。

 たとえば、建物を借りる契約をするとその建物を使う権利が生じますが、同時に、通常はその使用代金を支払っていく義務が生じます。その契約をしただけでは、まだその経営組織の財産に(金銭的評価額を確実に測ることがの可能な)変動を生じませんが、その使用代金を一回づつ支払うという(金銭的評価額の数値を確実に測ることが可能な、その"建物の働きという商品"に対する"代金の支払"という)"取引"をしていくたびに、その金額の"資産"がその経営組織から減っていきます。

 また、たとえば、仕入品や機械を買う契約をしてその代金を支払って、その仕入品や機械を取得するという取引をすると、その取引によって、代金という資産(すなわち金銭)は減りますが、仕入品や機械という資産が増えます。

 さらに、その機械を買うために、他の経営組織や個人から金銭を借りる契約をしてその金銭を受け取るという取引をすると、金銭という資産は増えますが、その金銭額分の金銭を一定時期までに返さなければならない義務、すなわち借入金(返済債務)という"負債"が、その経営組織に増えます。

 また、その金銭の使用代金すなわち利息・手数料の支払義務が生じ、その利息手数料の支払いを一回づつしていく、その間の"金銭の機能という商品"の供給に対する、"代金の支払"という取引をしていくたびに、その金額の"資産"がその経営組織から減っていきます。

 そして、その経営組織がその仕入品や機械などを使ってその仕事の成果としての製品や商品やサービスを生み出して、その組織外の顧客にその仕事の成果を売る契約をして、その仕事の成果をを引き渡し、またその代金を受け取るという取引をすると、その仕入品という資産は減り、またその仕事の成果の製品や商品やサービス代金という金銭の資産が増えていきます。


 この8章の冒頭に述べたように、経営組織が、自立してその経営を維持していくためには(そしてその経営計画を的確に達成していくためには)、金銭を含めて、その経営組織が一旦それを持ち、それから配分していくことになるその"経営組織自身の財産全体の状況"」と、その経営組織自身が生み出して供給していくその代金を確保していく、"その経営組織の仕事の成果の供給とその代金の確保状況"を、必要な限りできるだけ的確に把握していくことが必要です。


 複式簿記は、何より、経営組織が経営維持をしていくために、その経営組織の財産の総体を、常に、資産・負債・資本のそれぞれの金銭的評価額の総体であるものとして、的確に認識していくことができるようにするための技術と言えます。

 そして、複式簿記は、そのような、"経営組織の資産・負債・資本の構成に変動を与えていく、その経営組織と、その経営組織外の個人や経営組織とのすべての取引を、一定期間ごとに、金銭的評価をして記録していって、その一定期間のそれらすべての取引の結果が、その経営組織の資産・負債・資本の構成のありようをどのように変動させたかを把握できるように、整理計算して、わかりやすく一覧表形式で表示できるようにする技術"と言えます。

 現在では、パソコンとそのソフトの使用で、個々の取引毎に、経営組織の資産・負債・資本の構成に影響を与えていくその内容を、数値として反映させて、それを把握していくことも可能になっています。

* なぜ、経営組織がその財産の総体を、このように資産・負債・資本のそれぞれに区分して(かつそれぞれの金銭的評価額を付けて)認識していく必要があるのかは、すでにこの章で簡単に触れました。

 重複になるものを含みますが、これについて補足します。

 今日では、経営組織が土地建物設備機械などの財産を使用してその経営を行っていくことは、不可欠です。
 そして、それらの財産を使用していくためには、その経営組織がそれらの財産を代金を支払って買ったり、借りたりしていく必要がありますが、その支払いのための金銭額は、基本的にその経営組織が生み出して供給していく、その経営組織の仕事の成果(製品・商品・サービス)代金として取得していく金銭額の(全体の)中から、"その経営組織に所属して各職(部門)の活動を行っていく人々に対して支給していくべき金銭額とは、別枠で"、それを確保して、その支払をしていかなければないからです。

 そうしないと、その経営組織は、土地建物設備機械などの財産を使用してその経営を行っていくことができなくなり、経営維持を継続していくことができなくなるからです。

 さらに、つけ加えれば、この複式簿記(を含む会計技術)を使うことによってはじめて、"その経営組織がその経営組織に所属して各職(部門)の活動を行っていく人々に対して、定期的に支給していくべき金銭の額を確保していくためにはいつ頃までに、どれだけの自己の仕事の成果(製品・商品・サービス)を供給してその代金を確保していく−つまりその契約獲得ととその結果を確保していく−べきか、さらには、どのような仕入品や機械を買ったり借りたりマーケティング(市場開設認知への活動)・アドパタイジング(宣伝広告活動)をしたりしていくべきか"、などの予測が可能になるからです。



 以下では、このような目的のために使用される複式簿記(とこれを含む会計技術)の内容について、より具体的に述べていきます。

 なお、ここで、経営組織の経営維持のために必要な、会計技術の"水準"について述べます。
 その水準は、この会計技術を使用して、経営組織の経営維持のために (後の10章で述べるような)必要な、経営計画作成・実行技術を使用できるようになる、という水準です。


経営組織の財産の、会計技術上の参考イメージ図
 ここで、会計技術上、資産・負債・資本に区分して認識していくべき経営組織の財産構成を、参考イメージ図に描いてみます。


---上記の代替説明図です。---
           [財産(の総体)]    

           [資産]     [負債]    
                   〔取引時には他に帰属すべき部分〕
           ↓         ↑
           ↓         ↓        ←(最終的に帰属する主体
(経営主体が保有←〔取引可能対象部分〕 [資本]         の観点から見た部分)
 していて取引可能な         〔正味として残る部分〕
 可能な対象である            
 という観点から見た部分で、負債+資本に等しい。)


注)  "資本"に関しては、会社の場合、その中に"資本金"という言葉で表示される部分があります。
 この、会社の場合の資本金は、ここで言う会計技術上の資本とは少し異なる意味で使われます。
 後の9章で説明します。


資産・負債・資本の勘定科目
 "資産"は、会計上、財産の最も大きな区分の一つと言えますが、それは、同時にいくつかの個々の資産の集まりです。

 会計技術上、それらの個々の資産は、それらを、さらにいくつかのグループ毎に分けて整理して、そのそれぞれが集計勘定(計算)されています。

 それらのグループは、主に、その個々の資産を、その経営組織が商品として供給してその代金額を得やすいかどうかの基準で、整理したものです。

 通常はこれらのグループは、その資産を商品として供給してその代金額の得やすいという順序で並べて、"流動資産"、"固定資産"、"繰延資産"とに大きく分かれて並べられています。

 "流動資産"’はさらに、"現金・預貯金"、"受取手形"、"売掛金"、"(仕入品である会計上の)商品"などの、より細かいグループ毎に整理して並べられて、それぞれ集計勘定されています。

(この辺の細かい「グループ」に関する説明は、読み流してもらってかまいません。)

 "固定資産"はさらに、"建物"、"機械・工具・備品"、"車両"、"土地"や、"(後の9章で説明するファイナンスリース契約による)リース資産"、"(出資金などの固定資産の性質を持つ)権利"などのグループ毎に、整理して並べられて、それぞれ集計勘定されています。

 "繰延資産"はさらに、"開業費"、"試験研究費"などのグループ毎に整理して並べられ、それぞれ集計勘定されてます。

 * 注1 この"繰延資産"は、その経営組織が支出した開業などに伴う、特殊な(後にこの章で述べるような)"費用"額のことであり、経営組織がその時点で保有して使用する"財産"とは把握しいにくいものですが、何年かに渡ってその経済的な効果が続くと考えられ、これを−その経営組織がその時点で取引対象にできる、ないしは使用できる−"財産"と考えて勘定するほうが適切であるために、通常は大規模な経営組織で、会計技術上、資産に含めて集計勘定されることになっている科目です。

 注2 個人経営組織の場合には、資産中の特別な科目として、"事業主貸(あるいは店主貸)"と呼ばれる科目が含められている場合があります。

 これについて少し説明します。

 その個人の、"経営組織としての活動部分"と、その個人の"生活活動部分"とは、区別して考えることができ、それぞれ別に財産を持って、その間で、(経営組織とその組織外との取引と同じように)やり取りをすることができる、と考えることができます。

 ただ、この、経営組織としての活動部分と、その個人の生活活動部分とのやり取りの場合には、そのやり取りは、経営組織とその組織外との取引のような、商品供給とその代金支払という、取引の対象間に差額の生じうる取引や、いずれは返さなくてはならないという義務である負債を生じうる取引とは、考えられません。

 前に書いた財産のイメージ図で言えば、経営組織としての活動部分と、その個人の生活活動部分との、それぞれの活動部分の財産の間での、"資産"であると同時に同額で"資本"でもある部分、かつ負債額には変動を与えない部分のやり取りにすぎないものです。)

 このやり取りの場合には、その"生活活動部分の財産"を、"経営組織部分の財産"に移す場合と、その反対の場合があります。

 そして、経営組織部分の財産の変動だけを考えると、経営組織部分の財産を生活活動部分に移す場合には、その移した財産金額の、経営組織部分の資産と資本が、同時に同額減少すると考えることができます。

 このような、個人経営組織においてその経営組織部分の財産を生活活動部分に移すやり取りをする場合には、経営組織部分のその資本の額については、"そのやり取りの都度減らす記録はしないで、この減らした金額を一定期間中はとりあえず資産の中にだけ含めて記録しておき、一定期間経過後にその期間中のやり取りによる減少額を集計勘定して、その集計勘定した金額と同額の資本の額を減らすように記録し、それを集計計算する"、という記録・整理・計算方法も可能です。

 "事業主貸(あるいは店主貸)"は、そのような集計計算をする場合の科目です。

(このような集計計算をした方が、経営組織部分からの、一定期間内の生活活動部分への資産・資本の移動の金額を、わかりやすく把握できます。
 そして、個人経営組織においては、基本的に、このような"事業主貸"の科目を、その"資産"”の科目中に区分して含めています。)



 以上のような、資産の内訳とも言える、より詳細なグループ毎の区分を、"勘定科目"あるいは単に"科目"と呼びます。または、"勘定"と呼ばれることもあります。


 勘定科目の大きなグループを"大科目"、中位を"中科目"、小さいのを"小科目"などと呼ぶこともあります。

 資産も、負債や資本と同じく勘定科目の大科目の一つであると言うこともできます。(実際の"決算書"の中の"貸借対照表"と呼ばれる書類を見て、参考にして下さい。)


 "負債"についても、会計技術上、資産と同様に(1年以内に返済期日が来る負債である)"流動負債"と、(1年を越える返済期日の負債である)"固定負債"とに、大きく分けて整理して並べられ、それぞれ集計勘定されています。

 この"流動負債"は、さらに"‘支払手形"、"買掛金"、"短期借入金"などのより詳細な科目に分けて整理されて並べられ、それぞれ集計勘定されています。

 "固定負債"は、"長期借入金"などの、より詳細な科目に分けて整理されて並べられてそれぞれ集計勘定されています。

*  〔この小文字の説明部分も、当初は読みながしてもらってもけっこうです。〕
 負債の中の中位の科目として、"退職給与引当金"、"貸倒引当金"などの、より詳細な小科目が含まれている"引当金"という科目が使用されている場合ががあります。

 この引当金は、それについての取引はまだなされてはおらず、将来その取引がなされた時に(後にこの章で述べるような)"費用"額になる金額のことで、その時点の経営主体の負債額とは把握しにくいものですが、何ヵ月か後、あるいは何ヵ年か後には確実に"費用"額になることがその時点で分かる金額であって、これを−その経営組織がその時点で負担している−負債と考えて勘定するほうが適切であるために、負債に含めて集計勘定することにしている科目です。

 この引当金は、通常は、大規模な経営組織や、給与規定で退職金支給をすることを定めている経営組織で使用されている科目です。


 これらの、負債の内訳とも言える、詳細なグループ毎の区分も、資産の場合と同様に、"勘定科目"あるいは単に"科目"あるいは"勘定"と呼ばれています。
(実際の"決算書"の中の"「貸借対照表」と呼ばれる書類"を見て、参考にして下さい。)


 "資本"も、個人経営組織の場合と、会社などの経営組織の場合とでは、若干異なる科目によってですが、通常は、さらにそれを細かく区分整理して並べて、それぞれ集計勘定されています。


 個人経営組織の場合には、前に、資産のところ(の、注2)で述べたのと逆に、資本の中に"事業主借(あるいは店主借)"と呼ばれる科目が含められている場合があります。
(これについても、繰り返しになりますが、前に資産のところ(の、注2)で述べたのと同様に、少し説明します。

 その個人の、"経営組織としての活動の部分"と、その個人の"生活活動部分"とは区別して考えることができ、その個人の経営組織としての活動部分と、その個人の生活活動部分との間で、財産のやり取りをする時には、その生活活動部分の財産を経営組織部分の財産に移す場合と、その反対の場合があります。

このように、個人の経営組織部分と、生活活動部分との間で財産のやり取りをする時に、生活活動部分の財産を経営組織部分に移す場合には、経営組織部分の財産の資産と資本が、同時に同額増加すると考えることができます。

 この場合にその資産の額については、その都度増加させる記録をしないで、この増加した金額を、一定期間中はとりあえず資本の中にだけ含めて記録しておき、一定期間経過後にその増加した金額を集計勘定して、その集計勘定した同額の資産の額を増やすように記録し、それを集計計算する、という記録・整理・集計計算方法も可能です。
 "事業主借(あるいは店主借)"は、そのような場合に集計計算をする場合の科目です。
このように集計計算をすると、一定期間内の、生活活動部分からの資産と資本の移動の金額を、よりわかりやすく把握することができます。
 そして、個人事業経営組織においては、基本的に、このような事業主借の科目がその資本中に、区分した科目として含められています。

 会社などの経営組織の場合には、この、会計技術上の資本は、"資本金"、"資本準備金"、"利益準備金"、"当期利益"、"繰越利益"などの、より詳細な科目に分けて整理して集計勘定されています。
 会社などの場合のこれらの科目区分は、その経営組織の経営維持のために、その時点でのその経営組織の財産構成上の資本の金額を明らかにするという目的のためにだけでなく、その経営組織外の社会から見たその経営組織の経営に関する一定の情報を明らかにする必要があると考えられているために、そのような目的のために商法などの法律で、特別に設けることが義務づけられている科目区分です。

 これらの、資本の内訳と言える詳細なグループ毎の区分もまた、"勘定科目"あるいは単に"科目"、あるいは"勘定"と呼びます。
(実際の"決算書"の中の、"貸借対照表"と呼ばれる書類を見て、参考にしてみて下さい。)


 
貸借対照表
前に図示したような資産・負債・資本の内訳と金額を、複式簿記会計上は、たとえば下記のような表で示し、これを"貸借対照表"と呼んでいます。

   (借方)
   (貸方)
[資産]  金何円
 流動資産 金何円
  現金預金  金何円
  売掛金   金何円
 固定資産 金何円
  機械工具  金何円
  建物    金何円
[負債]  金何円
 流動負債 金何円
  支払手形  金何円
 固定負債 金何円
  長期借入金 金何円
[資本]  金何円
 資産合計 金何円  負債資本合計 金何円


*表の左側を"借方"、右側を"貸方"と呼んでいます。
 借方合計金額と、貸方合計金額とは必ず同じ金額になります。
 (前に示した、経営組織の財産の会計上の参考イメージ図を見て下さい。)
 この"貸借対照表"は、"バランスシート"’とも呼ばれています。略して、
 "B/S"と表記されることもあります。

**資産・負債・資本の"勘定科目"は、経営組織の一定時期の財産の状態を表している、この貸借対照表を作成するために使われるものです。
 (前に示した、"経営組織の財産の会計上の参考イメージ図"を見て下さい。)


 
収益と損費と利益
 "経営組織が、その職に所属する人々の活動を通じて商品を生み出して、その組織外の社会に対して、その代金取得と引き換えにその商品を供給していき、それによって取得していく代金から、その各職に所属する人々への配分を定期的に行っていく"という、その経営組織の経営の基本的な活動を、継続していくことを考えてみて下さい。

 この場合に、その経営組織が、一定期間内ごとにその仕事の成果として生み出して供給していくことによって取得した代金のうち、どれだけの数値をその職(各部門)に所属する人々に配分していくことができるかを考えてみると、もちろんその全部を配分していくことはできないということは、直観的に明らかだと思います。

 それでは、どれだけの数値を配分していくことが可能なのか。

 また、その経営組織が、一定期間内ごとに、どれくらいの価格の商品等をどれくらいの金額の数値だけその顧客たちに供給していくことができれば、その各職(各部門)に属する人々への定期的な配分を継続していくことができるのか。
(逆に言えば、その経営組織は、一定期間内ごとに、どれくらいの価格の商品等をどれくらいの金額の数値分、その顧客たちに供給していくことができなかった場合に、その職(の各部門)に属する人々への定期的な配分を継続していくことができず、それが継続していく結果としてその経営を維持していくことができなくなる可能性が出てくるのか。)

 今日、これらの答えは、会計技術抜きではまず出せません。どんなに小規模な経営組織であってもです。


 その理由は次のようになります。

 経営組織が実際に経営をしていくためには、基本的に、土地建物機械設備などを、代金を払って取得するか、その使用代金を定期的に払っていって借りていく必要がでてきます。
 
 また、経営組織が実際に経営をしていくためには、その経営組織が商品を供給していくために必要な仕入品の仕入代金や、事務用品や電気やガソリンなどの代金や、公的サービスの代金とも言える税金など公租公課金を、やはり定期的に払っていく必要がでてきます。

 土地建物機械などを取得するための代金を、他の経営組織や個人から借り入れて、その土地建物機械などを取得した場合には、その返済期日までその借り入れをした金銭の使用代金(すなわち利息・手数料)を支払っていく必要がでてきます。

 またこの場合にはさらに、この、借入金銭の使用代金のほかにも、その返済期日までの一定期間内に、その借り入れた金額そのものの返済代金を別に確保していく必要がでてきます。(借入元金を、割賦返済していく場合でも、同じです。)

 さらに、土地建物機械設備などのうち、土地以外のものについては、使用していく中でその働きが劣化していくため、一定期日までには再取得したり、新しいものに借り換えたりしなくてはならず、一定期日までにはその再取得や借り換えのための代金を確保していく必要がでてきます。

 この、再取得や新しい機械設備の借り換え代金の金額は、その機械設備などの規模によっては、かなり大きなものになります。

 これらの、経営組織が実際に経営をしていくために必要な、土地建物機械・仕入品・電気・ガソリンなどを継続して使用するために支払っていくことが必要な金銭の量は、"その職に属してその活動を行っていく人たちに定期的に配分していく金銭の量とは別に、その量にプラスして"、その経営組織の生み出して供給していく商品等の代金として、その経営組織が確保していく必要があります。
(そうしていかないと、基本的に、一定期間継続後には、経営を維持していくことができなくなります。このことは直観的にも明らかでしょう。)

 これらの、経営を維持していくために、その職に所属してその活動を行っていく人たちに定期的に配分していく金銭の数値とは別に、その量にプラスして、その経営組織が生み出して供給していく商品等の代金としてその経営組織が確保していく必要がある金銭の数値は、一定期間内ごとに、どれくらいの数値になるのか。

 また、これらの支払いのための金銭の数値(金額)を確保していくためには、その経営組織は、一定期間内ごとに、どれくらいの価格の商品等を、どれくらいの数値だけは、その顧客たちに供給していくことが必要なのか。

 今日、基本的な会計技術抜きではこの答えはまず出せないでしょう。どんなに小規模な経営組織であってもです。


 
"経営組織が商品を生み出してその顧客たちに供給していくことを通して、その商品等の代金として取得できることが明確になった金銭の数値"を、会計技術上では、(1年間や1か月間などの)一定期間を単位にして区切って計算して、その一定期間中の、"収益(収入)"("売上"ともいう)と呼びます。

* 注1 なお、ここで、その経営組織が、一定期間内ごとに生み出した商品等の代金として"取得した金銭の数値"’ではなくて、"取得できることが明らかになった金銭の数値"とするのは、今日では、"取引の契約段階"でその金銭の数値を計算した方が、より的確にその時点のその経営組織の経営のありようが把握できるからです。
(ただし、金銭そのものの収支時期は、ずれることがあるため、会計技術上、金銭の即時的支払可能性を確保していくための必要上、複式簿記の決算書類の他、資金収支計算書を作成していっています。)

注2 その経営組織外の個人や経営組織から、借りてきて取得できた金銭の量(借入金額)は、「その経営組織が生み出して供給する商品の代金として取得する」金銭ではなく、"収益"としては勘定しません。

 この金額は、一定期間後にはその経営組織外の個人や経営組織に返さなくてはならない金銭の量であって、会計上、前に述べた、"負債"に該当する金額です。

 一方、その経営組織の基本的な商品ではないような、たとえば使用中の機械や事務用品の一部などを、その経営組織外の個人や経営組織に売ったような場合でも、やはりその経営組織外に対しては、その経営組織がそれを商品として供給してその代金を取得したということであることには変わりはないので、それらを売った代金は、"収益"として勘定します。



 
また、"経営組織が、「商品等供給代金としての収益を得る」ために、「その収益を得るのと同じ一定期間内に」「その経営組織外の個人や経営組織の資産を取得したり借りたりすることに伴い、その取得代金や使用代金としてその経営組織外の個人や経営組織に対して支払うことが必要になる金銭の数値」であって、「その収益を得るのと同じ一定期間内に対応する部分(本来その収益を得るためにその期間内に支出されるべき部分)」"を、会計技術上では、その一定期間中の"損費"と呼びます。("(必要)経費"などと呼ばれたりします。)

 たとえば、経営組織が、一定期間内の商品供給代金としての収益を得るために、その一定期間中に、その経営組織外の個人や経営組織の、機械設備や、仕入品や、電気・ガソリンや、公的サービスなどを取得したり借りたりしてそれを販売したり使用したりすることに伴って、その取得代金や使用代金として支払うことが必要になる金銭額が、その一定期間内の損費です。

* 注 損費の中で特別なものとして、
"減価償却費"と呼ばれるものがあります。
 これは、経営組織が収益を得ていくために、その経営組織自身が持っている建物や機械設備などを使用していった場合には、その建物や機械設備などの"働き(効用)"は劣化していっていずれは使用できなくなりますが、"このようにして使用できなくなった時点でそれらの建物や機械設備を購入する(買換える)ために必要な金銭の量を、その時点までの一定期間毎により正確に予測しておくために、その買換えの時点でその建物や機械設備を買換えるために必要な金額を、それまでの期間の一定期間(通常は1年間)中の"損費"として計算しておいて明らかにしておくためのもの"です。

 このように、この「減価償却費」は、その金額はその一定期間中の「損費」として計算されますが、「その一定期間中に」金銭として支払うことが必要になる金額とは言いにくいもの(かつ実際に金銭がその期間の損費として支出されることもないもの)ですが、会計上(より正確に予測するために)で必須なものです。

 そして、その経営組織外の個人や経営組織から資産を取得してそれを使用する場合には、その資産が、その経営組織のその収益を得るのと同じ一定期間内に使用されきらずに資産として残るような資産であれば、"その一定期間中"の"損費"としては勘定しません。

(たとえば建物や機械設備のような資産を取得する取引の場合、基本的に支出額を損費勘定にしませんし、仕入品などで当期間中には売れ残ったものについても、同様です。)

 このような、"その経営組織のその収益を得るのと同じ一定期間内に使用されきらずに資産として残るような資産"を取得して使用する場合には、その取得の時には"資産"として勘定しますが、そのような資産の中で(仕入品などとは異なって)その経営組織がそれを使用している資産の場合、その将来の買換予測金額を、買換えまでの使用可能期間で割り振った金額を、その一定期間中の損費として勘定していくことにしています。

 この損費は、上記に述べたように、"減価償却費"と呼ばれるものです。

* 注1 前にも述べた所がありますが、損費は"損失・費用"を省略した言葉であって、簡単に"費用"と呼ばれたり、"経費"と呼ばれることもあります。

注2 借入金の返済額は、その経営組織が、その組織外の人々に対して、その資産を使用することに関して支払う金銭であっても、その資産の使用代金として支払う金銭ではなく、損費として勘定しません。
(返済金(元金)は、借りた金銭の使用代金ではなく、借りていた金銭、またはその代わりの金銭そのものの返済です。)

注3 仕入品などの資産については、それを仕入れた時には資産として勘定しておき、それが商品として売れたときには損費として勘定する、という勘定方法も考えられます。
 また、仕入品を仕入れた時にはそれを損費として支出したものと勘定しておき、それが一定期間を越えて売れ残った場合には、その一定期間経過後の時点で損費の金額を取り消して減らし、その減らした(支出がなかったものとした)損費の金額で資産を取得したものとして、資産として勘定するようにする、という勘定方法も考えられます。

 さらに、大量の、またさまざまな仕入品を仕入れて商品として供給していく経営組織の場合には、個々の仕入品ごとにそのように勘定するのではなく、一定期間内の仕入品の合計額を一括して、上のように勘定していくという勘定方法も考えられます。


 このように、一定期間内の、経営組織が生み出して供給していく商品の代金総額と、その代金を得るために経営組織がその組織外に対してその組織外の資産の使用代金や取得代金として支払うことが必要になる金額の総額を、収益と損費というグループに分けてそれぞれ合計してみると、経営組織は、その経営を継続していくためには、一定期間ごとに、その経営組織が取得した収益が、損費を越えるその金額の範囲内で、その各職に所属して活動をしていく人たちにその金銭を配分していくことができる、ということになります。

 逆に言えば、"経営組織がその経営を維持していくためには、その経営組織は、一定期間ごとに、その職に所属して活動をしていく人たちに定期的に配分していくべき金銭の額と、その期間の収益を得るために必要な損費の額を合計した額の収益の額を、その経営組織が生み出して供給していく商品の代金として取得していかなければならない"、ということになります。

* 注 なお、その経営組織がその時点でプラスの資本を持っていて、かつその資本の金額の範囲内で流動性が高い(売却しやすい)資産−たとえば国債など−を持っている時には、その流動性の高い資産額の範囲内で、その資産を、商品として組織外に供給してその代金を取得するという方法によって、その一定期間内の収益を増加させるということも可能です。
 しかしこれは、一時的な、そのような資産額の範囲内で可能になる収益増加のための方法にすぎず、基本的には、継続的に使用できる方法ではありません。


 なお、今日では、経営組織がその経営を維持していく上で、その職に所属して経済活動を行う人々の大多数は、その経営組織との間で、"雇用契約"をして、その雇用契約に基づいてその経営組織のために職の活動を行い、その雇用契約に基づいてその経営組織から一定額の賃金の配分(支給)を受けていく、というありようでその職の活動にたずさわっています。
(簡単に言えば、経営組織がその経営を維持していく上で、その職に属して経済活動を行う人々の大多数は、雇用労働者としてその職の活動にたずさわっています。)


 この、雇用契約に基づいて一定額の賃金の支給を受けていく人たち(すなわち雇用労働者たち)に支給していく賃金は、その経営組織の職に属してその経済活動を行っていく人たちへのその経営組織の収益からの配分の一種ではあっても、会計上、一般的には損費として扱われて勘定されています。

* 注1 その理由は、この雇用契約は、その経営組織がその経営に関して行っていく意思決定については、基本的にこれに関わる権利を持たない契約になっているため、雇用労働者はその経営組織にとってその"組織外の個人"であると見て、その雇用労働者がその職に所属して行う活動に対して支払う金額は、"その経営組織の外部の人の労働力という資産の、使用代金"として勘定しているわけです。

注2 なお、会社などの経営組織の場合には、その経営組織との雇用契約によってではなく、その経営組織との委任契約と、会社などの組織の法律とに基づいて、その委任契約の内容と法律の定めの範囲で、その経営組織の経営上の意思決定やその適否の審査かかわる職の活動にたずさわる個人がいます。

(法律上は、"代表取締役"、"理事"、"監事"などの名前でよばれ、一般的には"役員"と呼ばれる人たちです。)

 この、役員の職の活動に対して、会社などの経営組織から定期的に支給される一定額の金銭である"役員報酬"’も、雇用労働者に支給される賃金と同じように、会計上一般的に、損費として勘定されています。

 役員が継続的に行う、経営の意思決定にかかわる職の活動は、その経営組織との委任契約や、法律の定めに基づく範囲内での部分的・限定的なものであり、その経営組織の基本的な意思決定には、やはり関わることができないものと考えられていて、雇用労働者の活動と同様に、"その組織外の個人への、その職の活動力という資産の使用代金の支払"であるものとして勘定しています。

 ただし、この、役員への報酬金額は、あくまでも定期的に支給される一定額の役員報酬金額のみが、損費として勘定され、賞与など不定期不定額の役員報酬金額は、税法上で損費として勘定されないことになっているため、通常、損費として勘定をしていません。

 この不定期不定額の役員報酬金額は、その経営組織の一定期間内に取得する収益を得るために必要な金額として、その経営組織の外部に対してその資産の使用代金として支払った金額であるとは見ないで、その経営組織の内部で、その収益の一部をその職に属する人々に配分しているにすぎないものとして勘定していることになります。

注3 また、会社などの経営組織の場合には、役員の他にも、会社の運営などに関する法律に基づいて、"その経営組織の資本の出資をしたなどの一定の資格を持っていることによって、その経営組織の経営上の基本的な意思決定に関与する権利を持つ人々"がいます。
(これらの人々は、"社員"、"組合員"、"出資者"、"株主"などの名称で呼ばれています。)

 このような社員や株主は、その経営組織の、毎年の事業計画や予算を決めたり、決算を承認したりすることなど、経営上の基本的な意思決定に関与する権利を持つだけで、基本的にそれ以上の義務をその経営組織に対して負わないことになっているため、その経営組織の職の活動にたずさわっている人々であるとは言いにくいのですが、それでも、その経営組織の基本的な意思決定に関与するという職の活動にたずさわっていることには、変わりはありません。

 このような社員や株主に対して、その経営組織から、その経営組織の一定期間内に取得する収益の一部を配分する場合にも、その配分金額を、損費としては勘定しません。(つまり、その経営組織の一定期間内に取得する収益を得るために必要な金額としてその経営組織から外部の人に対してその資産の使用代金として支払った金額としては見ないで、その経営組織の内部で、その収益の一部をその職に所属する人々に配分しているものとして勘定している、ということになります。)



 
利益(経営及び会計上)
「経営組織が一定期間内にその商品等供給代金として外部から取得した"収益(収入)"の金銭の総数から、その同じ一定期間内に、その経営組織の雇用労働者への賃金の支払やその経営組織の役員への定期報酬の支払なども含めて、その経営組織が"損費"として外部に支払った金銭の総量を差し引いた残額となる金銭の総数」を、会計技術上、その一定期間内の"利益"と呼んでいます。
("利益"は、"純利益"とも呼ばれます。)

 このような、その経営組織の一定期間中の"利益"は、その一定期間最終時点で、その経営組織にとっての"資本"になると考えることができます。

* 注1 会計上、1年間や1ヵ月間などの一定期間の最終時点のことを"期末"と言い、その一定期間の開始時点のことを"期初"と言います。

注2 正確に言えば、一定期間中でも、時間の経過とともに収益の額と損費の額は変動 していくので、その都度利益も変動していきす。
 その結果、資産・負債・資本からなる財産状況もその都度変動していくのですが、会計技術上の適切さを考えて、1年間とか1カ月間など一定期間を単位にして、その間の収益と損費の集計計算をして、その結果を利益として計算して、それが各期末時点で資本になっていくものとして、把握していくわけです。

注3 一定期間内の利益の金額が、マイナスになるときは、マイナスの利益と呼ぶことも可能ですが、一般的には、一定期間内の"損失"と呼ばれています。
 この損失が出る場合には、その一定期間後に資本は減少することになります。
 なお、資本(純資産)がマイナスになることがありえます。これは、その経営組織が、仮にその資産の全てを商品として代金を得て組織外に供給できたとしても、外部への負債支払いができきれないでいる、という状態です。
 あるいは、そのような状態であるために、外部への支払いを待ってもらっている、ないしは、待たせているという状態だ、と言ってもよいでしょう。



 ここで、経営組織の一定期間内の活動内容とその成果である、収益と損費と利益(または損失)との関係を、参考イメージ図に描いてみます。

収益と損費と利益の関係の、参考イメージ図


---上記の代替説明図です。---
   〔1日・1月・1年など一定期間内の、収益と損費と利益の関係〕
                     
                         (収益を確保するため
                  [損費]    に必要な組織外の資産
 (商品供給代金                  の使用代金総額)
  の総額)     [収益]           
                  [利益]    (差引残金額)
                          
                    


    〔1日・1月・1年など一定期間内の、収益と損費と損失の関係〕
                     
                         (収益を確保するため
                          に必要な組織外の資産
 (商品供給代金          [損費]    の使用代金総額)
  の総額)     [収益]      
                    
 (差引残金額)   [損失]           
                    



 
次に、これと、前に述べた、経営組織の財産のイメージ図を合わせてみると、次のようになります。


資産・負債・資本と、収益・損費・利益との関係の、参考イメージ図


---上記の代替説明図です。---
  〔期初財産〕       
                    
            〔負債〕      (資産が、資本部分と負債部分
                       で構成されていることを示す。)
     〔資産〕   〔資本〕    
   

  〔期間中の財産変動(及び結果)〕    (その経営組織の、期間中の、
                     ┐ 商品供給代金の確保には
            〔負債〕     ├ かかわらない活動による
                     │ 変動の結果を示す部分)
     〔資産〕   〔資本〕    ┐┘
            〔損費〕    ├(期間中の、商品供給代金の確保
            〔利益〕    │ にかかわる活動による変動を
      〔収益〕          ┘ 示す部分)
              

  〔期末財産〕       
            〔負債〕      (期間中の、商品供給代金の確保
                       にかかわる活動結果としての
                       利益が、資本となった結果を
     〔資産〕   〔資本〕       示し、また、期間中の、商品供給
                       代金確保にはかかわらない活動
                       による変動の結果も示す。)




 
収益・損費・利益の勘定科目

 一定期間ごとの収益と損費の各合計金額は、(基本的に)その経営組織が、その一定期間中に、その商品供給代金を確保することにかかわる取引を行った結果によるものです。
(この辺りも、当初は読み流していただいて結構です。)

 その経営組織の、一定期間ごとの収益と損費の各合計金額を出すためには、その経営組織が商品供給代金の確保にかかわる個々の取引を行った都度、その取引が、収益を増加させるあるいは減少させる取引であるか、または損費を増加させるあるいは減少させる取引であるかの種類ごとに分けて、その取引の種類と金額を記録していって、一定期間後にその種類ごとに集計勘定をします。
 
 このような会計上の記録と集計を行っていくときに、経営組織の商品供給代金の確保にかかわるそれら個々の取引が、収益を増減させる取引であるかまたは損費を増減させる取引であるかの(四つの)種類ごとに分けて記録・集計するだけでなく、どのような内容でその収益を増減させ、あるいは損費を増減させる取引であるかという、より詳しい種類ごとに分けて記録・集計していくこともできます。

(たとえば、"商品等として売りに出した物を売ったことによる金銭の収入"という取引があったり、機械の"賃借料を支払ったことによる金銭の支払い"という取引があったりした場合に、それぞれを、"収益増加の取引"又は"損費増加の取引"という種類に分けて記録するだけでなく、"売上〔による収益増加の取引〕"又は"賃借料〔の支払いによる損費増加の取引〕"というような、より詳しい種類に分けて記録していって、それぞれを集計し、それらの合計として収益・損費の各合計額を出す、というようなことが可能です。)

 このように、収益・損費のより詳しい種類ごとの集計結果として収益・損費の各合計額を出すことができると、その一定期間のすべての取引活動の結果としてのその期間中の利益に対して、どのような種類の取引が、他の種類の取引と比べて、どのような働きをもって、その結果に対してより影響を及ぼしているかというような、その経営組織の経営の実際の内容を、より的確に把握しやすくなります。

 
会計技術上、このような、収益・損費のより詳細な種類ごとの集計結果として収益・損費の各合計額を出すための、その収益・損費の各増減のより詳しい内訳を示す、より詳しい種類(グループ)も、財産構成の種類(グループ)と同様に、"勘定科目"と呼ばれています。
 単に"勘定"、又は"科目"とも呼ばれます。
 また、一定期間内のそれらの取引の結果としての収益・損費の差額である利益や損失もまた、会社に関する法律や税金に関する法律上の規定に基づいて、より詳しい種類の"勘定科目"に分けて勘定されています。

 一定期間内の収益・損費を増減させることになる取引の勘定科目も、また、収益・損費の差額としての、利益や損失の勘定科目も、財産構成の勘定科目と同様に、それぞれ、大科目、中科目、小科目の各段階ごとの科目に分けて勘定されています。

(一定期間内の収益と損費との差引残高である利益または損失の両方を、あわせて表現できるように、"損益"と呼ぶことがあります。
 一定期間内の収益と損費のそれぞれを増減させる個々の取引は、一定期間内の、この損益を増減させることになります。)


 一定期間内の収益・損費を増減させることになる個々の取引の勘定科目は、一定期間内のそれら個々の取引の結果である損益の勘定科目と一緒にして、大科目としては、基本的に、"営業損益"と、"経常損益"と、それらを差引したうえ、さらにそれらに含めない特別の損益額を加減した"純損益"とに分けられます。

 
"営業損益"の中の中科目としては、収益を増加させる−商品供給の対価である−"売上(高)"、"報酬(額)"などの科目が含まれ、また損費を増加させる"売上原価"、"販売費及び一般管理費"などが含まれます。

 "経常損益"の中の中科目としては、収益を増加させる"営業外収益"などが含まれ、また損費を増加させる"営業外費用"などが含まれます。

 "純損益"の中の中科目としては、基本的な商品供給代金ではないような取引の結果として生じる利益である"特別利益"や、基本的な商品供給代金取得のためではないような取引の結果として生じる損費である"特別損失"などが含まれます。
 また、会社などの経営組織の場合に必要になる"当期未処分利益"あるいは"当期未処分損失"’などが含まれます。

(小規模な経営組織の場合、"営業損益"、"経常損益"に分けないでも、経営上差し支えないことがあります。)

 小科目としては、たとえば"営業損益"中の、"販売費及び一般管理費"の中に含まれる"従業員給料"、"水道光熱費"、"減価償却費"などが含まれることになりますが、ここではその詳細には触れないで、次に進みます。

(一定期間内の収益・損費の勘定科目は、収益・損費を増減させる個々の取引を、種類ごとに分けて勘定するうえでの、その種類ということになります。

 これに対して、収益・損費の発生のない、直接に資本や負債を増減させる取引は、それによって増減される資本や負債の内訳である勘定科目を、そのままその取引の勘定科目として使って、記録・集計していっています。)


 
以上のような、一定期間内ごとの収益・損費・損益は、会計技術上で、下記のように表示され、この表を"損益計算書"と呼んでいます。

 なお、分かりやすくするために、小規模な経営組織の例で示してあります。

 
損益計算書
   (借方)
   (貸方)
 損費及び利益(損益)     収 益
[損費]  金何円
 売上原価   金何円
 販売費及び
  一般管理費 金何円

[損益]  金何円
[収益]  金何円
 売上    金何円
 報酬    金何円
 固定資産売却収益
       金何円
 雑収入   金何円
損費及び利益合計 金何円 収益合計    金何円


 *借方合計金額と、貸方合計金額とは、必ず同じ金額になります。
 (収益から損費を差し引いた金額が、利益の金額なので。)

 この"損益計算書"は、略して"P/L"と表記されることもあります。
  (英語のプロフィット (収益) ・アンド・ロス(損費)ステイトメント ( 報告書 )の頭文字。)

  左右貸借にせず、収益・損費・損益の順に縦書きに表記するものもあります。

*収益・損費・利益の"勘定科目"は、経営組織の一定期間の「商品等供給とその代価の獲得状況」を表している、この損益計算書を作成するために使われるものです。
 (前に示した、"経営組織の財産の会計上の参考イメージ図""経営組織の資産・負債・資本の会計上の参考イメージ図"と"経営組織の収益・損費・利益の会計上の参考イメージ図"を見て下さい。)


 
精算表
この、損益計算書と、前に述べた貸借対照表を合わせた表をつくり、下記のように表示することができます。

      精算表                                     
   借方         貸方
資産  金A円 負債 金何円
資本 金何円
〔負債資本合計〕    金A円
損費(増加)金何円 収益(増加)金B円
利益(差引残額) 金何円
〔損費・利益合計〕    金B円
〔資産+損費・利益の合計〕
  金A+B円
〔負債・資本+収益の合計〕
  金A+B円
 ┐

 ├貸借対照表部分
  (一定時点ごとの財産状態)
 ┘
 ┐

 ├損益計算書部分
  (期間中の財産変動の表示)
  
 ┘
    
 *この表の、貸借対照表部分の貸借各合計金額(A)と、損益計算書部分の貸借各合計金額(B)と、この表の貸借対照表部分と損益計算書部分の各貸借合計金額を合わせた貸借各合計金額(A+B)は、必ず一致することになります。

 損益計算書の収益と損費は、一定期間中の、貸借対照表に示される資産と負債と、その差引金額である正味資産すなわち資本の総体の構成に対して(期初のありようからの)変動をもたらす取引を、収益増加と損費増加とに分けて記録・集計した金額です。

 そして、この表をみると分かるように、一定期間中の取引による損益計算書に表示される収益の増加額は、(その期間中は資本は増加しないものと会計上では考えるので)その期間中の貸借対照表に表示される資産額を増加させるか、(金銭をもらう代わりに借金を減らしてもらうことにする場合のように)資産額を増加させずにその金額分の負債額を減少させることになるか、その二つを合わせたものになると考えることができます。

 また、期間中の取引による損費の増加額は、その逆になると考えることができます。

(期間中に資本そのものを増減させる、"事業主貸""事業主借"など取引もありえます。)

 上に示した表の中に、その期間中の、取引によるものとは言いにくい、(機械などの資産を期間中使用することによるその機能の劣化を損費金額として計算した財産変動である)"減価償却費"’などの、期末に行うべき損益の集計結果を加えて、その期末に作る表を"精算表"と呼んでいます。


 
資金収支計算書

 今日では、前の項目で述べた、その経営組織の財産の状態を把握するための貸借対照表の作成と、一定期間ごとの経営組織の経済活動の成果を把握するための損益計算書の作成のほかにも、一定期間ごとの"資金収支計算書"の作成することができる技術が必要になってきています。
 
 今日、多くの取引が、商品とその代金が同時に交換されて行われるような("現金取引"と呼ばれる)取引ではなく、商品とその代金のそれぞれの引渡時期がずれて行われる(その相手方の信用が重要な役割を果たしているという意味で、"信用取引"と呼ぶことができる)取引で行われています。
 この場合、取引の合意・契約の時にはすでに、その経営組織の、その取引での収益または損費の金額を勘定することができます。

 会計の目的から見れば、その取引の(終了時点でなく)合意・契約の時点でその取引内容を記録して、それを貸借対照表と損益計算書に反映させて、その貸借対照表と損益計算書を見ていく方が、より適切にその時点の経営状況を把握できるので、そのように取引の(終了時点でなく)合意・契約の時点でその取引内容を記録していきます。

 しかし、そうすると、財産構成上での資本は充分にあっても、あまりに信用にたよりすぎていて、支払いのための現金預金などの金銭が足りなくなってしまう時期が生じる場合がありえます。
 こういう時期が続くと、資本が充分にあっても、その経営組織の経営継続は困難になります。

 また、機械設備を自ら所有して経営をしている経営組織では、その機械設備の減価償却費(すなわちその機械設備の働きの劣化という損費)は、その期間中の金銭の支払いを伴わない損費です。経営組織が、この減価償却費分の金銭を他の支払いに充てていってしまうと、その機械設備が使えなくなった時点で、その再購入や再借入のための金銭が足りなくなってしまい、経営継続が困難になります。
(資本の範囲額で、流動性の高い、たとえば国債などの資産があれば別ですが。)

 このように、今日では、期間中の取引による損益が、貸借対照表と損益計算書に反映される時期と、その損益が金銭そのものの収支になる時期とがずれているため、経営継続のためには、貸借対照表と損益計算書によってその経営組織の財産と損益の状態を的確に把握していくだけではなく、それぞれの期間中の金銭そのものの収支の状態をも的確に把握していくことが必要になっています。

 この、それぞれの期間中の金銭そのものの収支の状態を的確に把握していくために、それぞれの期間中の金銭そのものの収支の状態を、金銭そのものの収支を伴う取引の記録にもとづいて、わかりやすく表示するために作成する表のことを、会計技術上、"資金収支計算書"と呼んでいます。

 資金収支計算書は、原理的には、損益計算書の期間と同一の一定期間の、金銭そのもの出入が伴う取引の記録を抜き出して、その部分の貸借対照表と損益計算書を作成するのと同様にして、作成します。
(但し、金銭そのものといっても、貸借対照表上で見て"現金・預金"の科目に該当する資産を、金銭そのものと考えて作成しています。)

 但し、実際の作成は、損益計算書の期間と同一の一定期間内の、(基本的にその期間内の金銭収支を伴っている取引と伴っていないその経営組織の損益取引の総計額である)"(当期)利益"から、

 当期金銭収支を伴なっていない損費支出額である"減価償却費"を加算し、当期金銭収支を伴っていない収益収入額である"売掛金増加額"を減算し、当期金銭収支を伴っていない損費支出額である"買掛金増加額"を減算し、当期金銭収支を伴っていない収益収入額である"(支払手形振出などの)買掛金減少額"を減算し、(以上によって、"損益資金収支残額"が計算されます。)

 これに、当期の損益計算外の金銭収支を伴う取引の金額である、"固定資産取得金額"を減算し、

 さらに、同じく当期の損益計算外の金銭収支を伴う取引の金額である、"借入金収支金額"を加減して、

 それぞれの金額を明示して表に示して作成しています。
 ここで、資金収支計算書の表を示すことは、省略します。

 それほど難しいものではないので、前に示した貸借対照表と損益計算書のイメージ図と表を参考にして、作成してみて下さい。


 
複式簿記会計の出発点と終点

 
これまでのまとめです。("決算書"の意味など)
 複式簿記会計では、経営組織がその経営を継続維持していくという目的のため、その経営組織の経営の出発点、及び1年間や1ヵ月間など一定期間ごとの出発点で、まずその経営組織の財産を、"貸借対照表"に表示します。
(言い換えると、出発点で、その経営組織の財産の貸借対照表を作ります。)

 次に、その経営を進めていく中の、1年間や1ヵ月間など一定期間ごとに、その期間内の取引のすべてについて、個々に、それら個々の取引記録のすべての整理・集計結果が、(前に示した)"精算表"の資産・負債・資本・収益・損費として表示されるようになるように、(その精算表の中の資産・負債・資本・収益・損費の、いずれかの増減に該当することになる)その個々の取引の、勘定科目名と、その金額とを、貸借それぞれに記録していきます。
(たとえば、「借方:〔現金〕金何円/貸方:〔売上〕金何円」などのように記録していきます。)

 最後に、一定期間経過後の期末に、それら個々の取引記録のすべてを、勘定科目ごとに貸借それぞれ集計勘定したうえで、精算表を作り、その精算表から期末の"貸借対照表"と"損益計算書"を作ることによって、その期間の複式簿記会計の終点となります。
 貸借対照表と損益計算書のことを、複式簿記会計で"決算書"と呼んでいます。
 (前に表示した、"経営組織の財産の会計上の参考イメージ図"、"経営組織の資産・負債・資本の会計上の参考イメージ図"、"経営組織の収益・損費・利益の参考イメージ図"を参照してみてください。この"決算書"の意味が分かりやすくなります。)


 * なお、この期末時点での貸借対照表は、その期間中のすべての取引による収益・損費の差引残額としての、利益または損失が表示された形のものです。

 複式簿記会計では、期末時点の貸借対照表を作成するのと同時に、それに引き続いて次期の開始時の貸借対照表を作成することにしています。

 この次期開始時の貸借対照表は、その前期末の、その前期期間中のすべての取引による収益・損費の差引残額としての利益または損失を、資本の金額に繰り入れ、その利益または損失の金額自体は消した後の貸借対照表であって、経営開始時の貸借対照表と同じ形のものです。



 
複式簿記会計技術の実際の習得
 複式簿記会計技術の実際の習得のためには、実際に市販されている帳簿や伝票や、パソコンやそのソフトウェアーなどを使って、まず家計について、複式簿記会計の出発点から終点までができるようにすることが必要でしょう。

(家計とは、生活上の財産とその一定期間ごとの変動を、経営組織の財産とその一定期間ごとの変動と同様に考えて、その会計を行うことです。)


 それができるようになれば、実際の経営組織の複式簿記会計も、分からないところはその都度参考書を見ながらでも、できるようになります。

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