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A Little Princess, by Frances Hodgson Burnett
「小公女」
 The Project Gutenberg EBook of A Little Princess, by Frances Hodgson Burnett より。
 「青空文庫」の中に、菊池寛訳としてこの日本語訳が電子テキストで有りますので、この頁の下の方にそのリンクを掲載。少年少女向け作品なのでしょうが、当然、普通の意味で愛に−そしてさらに見直してみるとそれ以上に友情に−かかわる小説(物語)だと思います。

 小説は、それ自体幸福の素材さらにはディテール(構成要素)になるものだと思いますが、同時に、少なくとも私自身について言えば同じくらい、できればほんの少しのほんの束の間のだけではないような幸福を体験して生きるための「認識の手段である」(ポール・ニザンの言葉)と考えます。科学者にとって、他者のものであれ自身のものであれ、科学的作品(科学的研究の直接的成果としての論文など)がその人自身にとってもより深い認識獲得の手段であるのと同時に、その科学的作品やその対象世界がその人にとっての幸福の素材になっているのではないかということは、当たり前のようなこととして想像できますが、それと同じような −あるいはそのそれぞれの比重の点で逆のような− ものとして。

 心惹かれるこれらの−自分にとっては亀鑑的なと言ってよい−作品を素材にして、心を深く動かされること、本当に美しいと感じられるもの、ほんの少しのあるいはほんの束の間のだけではないような幸福の質に強く影響すると思われるものなどに関わっていく中で、それにより近づくための有効な認識、より正確に言えば「認識の総体」を獲得していけるのではないかと考えています。

 この作品の作者のバーネット自身は、物心付く前に父親を亡くし、二十歳の時に四人の子供たちを女手で育ててきてくれた母親を亡くし、離婚を経験し、またその後最愛の子供を16歳で病で失うという試煉を受けてきていたはずですが、この作者のそれぞれの作品の創作時期にかかわらず、作品(結局はその人自身でもあると思われる)の愛と、さらにおそらくそれ以上に友情という二つの言葉の意味についても考えて行きたいと思っています。


 − CONTENTS 1.Sara のページから−1。ここでは、本文をそのまま認識として。
 
 She was such a little girl that one did not expect to see such a look on her small face. It would have been an old look for a child of twelve, and Sara Crewe was only seven. The fact was, however, that she was always dreaming and thinking odd things and could not herself remember any time when she had not been thinking things about grown-up people and the world they belonged to. She felt as if she had lived a long, long time.
 
 ・・・   
 "Well, papa," she said softly, "if we are here I suppose we must be resigned."

 He laughed at her old-fashioned speech and kissed her. He was really not at all resigned himself, though he knew he must keep that a secret. His quaint little Sara had been a great companion to him, and he felt he should be a lonely fellow when, on his return to India, he went into his bungalow knowing he need not expect to see the small figure in its white frock come forward to meet him. So he held her very closely in his arms as the cab rolled into the big, dull square in which stood the house which was their destination.

 It was a big, dull, brick house, exactly like all the others in its row, but that on the front door there shone a brass plate on which was engraved in black letters:

MISS MINCHIN,
Select Seminary for Young Ladies.


 ・・・
 
 "I don't like it, papa," she said. "But then I dare say soldiers—even brave ones—don't really LIKE going into battle."
 
 Captain Crewe laughed outright at this. He was young and full of fun, and he never tired of hearing Sara's queer speeches.

 "Oh, little Sara," he said. "What shall I do when I have no one to say solemn things to me? No one else is as solemn as you are."

 "But why do solemn things make you laugh so?" inquired Sara.
 
 "Because you are such fun when you say them," he answered, laughing still more. And then suddenly he swept her into his arms and kissed her very hard, stopping laughing all at once and looking almost as if tears had come into his eyes.

 It was just then that Miss Minchin entered the room. She was very like her house, Sara felt: tall and dull, and respectable and ugly. She had large, cold, fishy eyes, and a large, cold, fishy smile. It spread itself into a very large smile when she saw Sara and Captain Crewe. She had heard a great many desirable things of the young soldier from the lady who had recommended her school to him. Among other things, she had heard that he was a rich father who was willing to spend a great deal of money on his little daughter.


 この日本語約として、Home − 亀鑑的作品からの認識note − 小公女 A LITTLE PRINCESS フランセス・ホッヂソン・バァネット Frances Hodgeson Burnett 菊池寛訳 へのリンクから。

 セエラ・クルウはまだやっと七歳なのに、十二にしてもませすぎた眼付をしていました。彼女は年中大人の世界のことを空想してばかりいましたので、自然顔付もませてきたのでしょう。彼女自身も、もう永い永い生涯を生きて来たような気持でいました。

・・・

「ねえ、お父様。」セエラは馬車の中でそっといい出しました。「もうここに来たのなら、諦めなければならないわねエ。」
 父はセエラがあまりませたことをいうので、笑って、そして彼女に接吻(キス)しました。父はその実ちっとも諦めてはいなかったのでしたが、セエラにそうと知らしてはならないと思いました。妙におどけた小さいセエラは、父にとってこそ、なくてはならぬ伴侶(みちづれ)だったのです。印度の家へ帰っても、セエラがあの白い上衣(うわぎ)を着て迎えに出て来ないのだとしたら、どんなに寂しいだろう、とクルウ大尉は思わずにはいられませんでした。父は娘をしかと抱き寄せました。馬車はその時陰気な街筋へがらがらと入って行きました。そこに二人の目ざす家があったのでした。
 その街並は、皆大きな陰鬱(いんうつ)な煉瓦建(れんがだて)でした。その一つの家の、正面の扉の上に、真鍮(しんちゅう)の名札が輝いていました。そこに黒でこう彫ってありました。

ミス・ミンチン女子模範学校

 「さあここだよ、セエラ。」とクルウ大尉は出来るだけ機嫌よさそうにいって、セエラを馬車から抱き下ろしました。セエラはあとになってよく思い合せたことでしたが、この家はどことなくミンチン先生にそっくりでした。かなりきちんとしていて、造作(ぞうさく)などもよく出来てはいましたが、家にあるものは何もかもぶざまでした。椅子(いす)も、絨氈(じゅうたん)の模様も、真四角で、柱時計まできびしい顔つきをしていました。

 「あたし、何だかいやになったわ。」とセエラは父にいいました。「兵隊さんだって、いざとなったら、ほんとうは戦争に行くのが、いやになりはしないだろうかしら。」

 その妙ないいかたを聞くと、クルウ大尉はからからと笑い出しました。

 「ほんとに、セエラ! お前のように真面目に物をいってくれるものがなくなると、わたしも困るね。」
「じゃア、なぜ真面目なことをお笑いになるの?」
「だって、お前が真顔でいうと、それがまた莫迦(ばか)に面白く聞えるからさ。」

(・・この後の2行分、翻訳の省略をしている・・? 小谷付記。)

 そこへ、ミンチン先生が入ってきました。ミス・ミンチンは魚のような冷(つめた)い大きな眼をして、魚のような微笑みかたをしました。先生はこの学校をクルウ大尉に推薦したメレディス夫人の口から、クルウ大尉が金持で、わけてもセエラのためなら何万金も惜しまないということを聞いていました。先生にとっては願ってもない話だったのです。
 
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